労働集約型企業の新規事業に、撤退ラインを引くことが重要な理由

寺倉 大史

寺倉 大史

Director

想定場面や課題

労働集約型の企業が、初期投資の大きい新規事業を立ち上げようとする際、意思決定の軸が変わることで、判断に迷いが生じるケースは少なくない。特に、労働集約型の多くの企業では、普段の経営管理をPL(損益)中心で行っており、毎月の売上や利益といったPL上の数値を基準に事業状況を把握している(PL脳)。

しかし、資本集約型の新規事業では、初期投資が不可欠であり、赤字スタートが前提となる。そのため、立ち上げ時には試算表をもとに、どのくらい投資をするかを計画することになる。ここまでは多くの企業が問題なく対応できるが、その後の判断基準までBS(貸借)視点に引きずられてしまうと、「資産管理の論理」で事業を捉えるようになり、PL視点を手放してしまう(BS脳)。

特に、既存の収益性が高く安定した事業、いわゆる「キャッシュカウ(cash cow)」を持つ企業では、手元資金に余裕があるため、緊張感が生まれにくい。結果として、赤字にならない範囲で少しずつ投資を続けるような運用が続きやすく、「投資している=前に進んでいる」といった錯覚が起きやすくなる。

そのため、新規事業への評価が甘くなり、成果があいまいなまま継続されてしまうこともある。本来であれば、数値によって判断すべきところを感覚で進めてしまい、撤退の判断を見送ったまま、リソースの浪費が慢性化する。

一方、スタートアップでは、一定の成果が出なければ資金調達が難しくなり、事業の継続そのものが不可能になる。事業の継続と成長を短期間で行うために、厳格な目標管理と、途中で立ち止まらない推進力が組織文化として根づいている。フェーズごとに見る指標は変わっていくが、どんな企業でも数字を追いかける点においては、何も変わらない。

たとえ、キャッシュカウを持つ企業であっても、PL脳であり続けることが重要。

解決策

新規事業をなんとなく継続してしまわないように、新規事業を立ち上げる際は、あらかじめ「撤退ライン」を設定しておくことが重要。たとえば「半年後にCV数が1,000件に満たなければ終了する」といったように、判断基準を定量的に決めておく。この撤退ラインは、初期投資額や期待される成果に応じて定義し、関係者で共有しておく。

また、定めた撤退ラインは、必ず守ること。

事前にルールを定めておくことで、事業側は常に成果を意識して動くようになる。「資金があるから続けられる」という甘さを排除でき、迷走を防ぎやすくなる。さらに重要なのは、「PL脳」を手放さないこと。たとえ初期フェーズで赤字が前提になっていたとしても、進捗や成果を数値で可視化し、どこまで達成したかを定量的に評価し続ける姿勢が求められる。

日々の施策が「どの成果にどのくらい貢献したか」を言語化し、PDCAを回し続けることが、事業全体の健全性を保つ。キャッシュカウを持つ企業こそ、自社資金に依存せず、あえて「財布を分ける」仕組みをつくるといい。

資金の出入りを明確にし、成果が見えなければ撤退、見えたら次に進む。このサイクルを徹底することで、新規事業にPL思考を持ち込みつつ、継続可能な挑戦ができる体制を整えることができる。

著者

寺倉 大史

寺倉 大史

Director

業界歴10年以上。マーケティング全体の戦略、プランニング、PM、組織開発など幅広く累計100社以上を支援。藍染職人、株式会社LIG執行役員を経て、デジタルマーケティングカンパニー『MOLTS』を設立。

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