旅行系メディアを襲ったコロナ禍と利用者数激減の危機
本ケーススタディスタディは、実際にあった事例をもとに組み立てられていますが、匿名性、NDA上の問題により、こちら側が提供した内容、かつ詳細データを掲載しないことを前提にし、意図がずれないように変更されております。また、数値データなどは、誇張がないよう低く掲載されていますので、実際のデータとは異なることがあります。
主に20代から30代の女性をターゲットに、旅行・外出情報に特化した消費者向けメディアサービスを運営していた企業だったが、新型コロナウイルスの影響による外出自粛要請によって状況が一変した。創業から約3年で月間アクティブユーザー数 300万人まで成長していたが、外出自粛要請により、ユーザー数がほぼゼロになり、社員数は約100名から約10名へと大幅削減され、サービス存続の危機に直面。この危機的状況を打開するため、変化した生活様式と情報ニーズを的確に捉え、新たな価値提供の形を模索する必要があった。3年かけて積み上げてきたビジネスモデルを根本から見直し、コロナ禍という未曽有の環境変化に対応するため、サービスの再定義と早期回復を目指すプロジェクトを立ち上げた。
サービス価値の再定義と新たなコンセプトの構築
まず取り組んだのは、サービスの根本的な価値の再定義だった。従来の「旅行・外出情報の提供」というコンセプトでは、コロナ禍の状況下で需要が見込めない。チームは「現在のユーザーが本当に求めている情報は何か」という視点で、人々の行動変容や情報ニーズを分析した。議論の中で浮かび上がってきた新たな方向性は二つ。一つは「生活圏内での小さなお出かけ」。たとえば、コンビニで話題のスイーツを購入する、近所のカフェに立ち寄る、時短営業中の飲食店を訪れるといった、日常生活の中での小さな外出に関する情報。もう一つは「未来のお出かけのための情報収集」。外出自粛中でも、自宅で動画配信サービスを視聴して映画やドラマのロケ地に思いを馳せたり、コロナ後に訪れたい場所をリストアップしたりするなど、将来のお出かけに備える情報ニーズがあることが見えてきた。この二つの軸を中心に、「生活に密着した近場のお出かけ情報」と「自宅で楽しむ未来のお出かけ計画支援」という新たなコンセプトを構築。3年間積み上げてきた方向性を一旦リセットする決断は困難だったが、サービス存続のためには必要な転換だった。
市場調査とSEO観点からの実現可能性検証
新たなコンセプトが定まったものの、SEOを主軸とするメディアとして成立するかどうかの検証が必要だった。具体的には、想定されるキーワードの検索ボリュームチェック、競合サイトの調査、検索結果の分析などを行った。多くのキーワードは検索ボリュームが小さく表示されていたが、Googleトレンドでは急激な伸びを示しているものも多数発見された。また、このような「生活圏内でのお出かけ」や「未来のお出かけ計画」に関するコンテンツは、企業メディアではほとんど提供されておらず、個人ブログやニュースサイトが主な情報源となっていた。チームで毎日ミーティングをし、「これは良さそう」「これは微妙」といった評価を即座に行い、次の行動につなげていった。検証サイクルを高速で回すことで、リソース不足を補いながら市場の変化を敏感に捉えていった。この段階で、新たなコンセプトに基づくキーワードには獲得余地があり、企業メディアとして本格的に参入すれば、一定のシェアを確保できる可能性が高いという見通しがたった。既存のプレイヤーが少ない領域だったため、質の高いコンテンツを迅速に展開すれば、早期に検索順位を獲得できる可能性があった。
高速コンテンツ制作と継続的な仮説検証
市場調査の結果を基に、具体的なキーワードのリストアップと優先順位付けを行い、獲得余地の高いキーワードから順にコンテンツ制作を開始した。サービス存続の危機という状況下で、「1日でも早く、1本でも多く」をモットーに、高品質コンテンツの量産体制を構築した。チームは既存のSEOノウハウを活かしながらも、新しいテーマや内容に合わせてコンテンツ制作のアプローチを調整。従来とは異なる切り口で、ユーザーに価値提供できる記事の構成や表現方法を模索した。制作したコンテンツの効果は日々検証され、好反応のあったテーマやフォーマットは即座に水平展開し、反応の薄いものは原因分析と改善を繰り返した。予測不能な状況の中でも、「これまで300万MAUまで成長させた実績がある」という自信を支えに、チーム全員が高いモチベーションを維持して取り組んだ。特に効果的だったのは、記事公開の翌日から検索順位が付き始めるような即効性のあるコンテンツを見極め、そのパターンを分析して類似コンテンツを素早く展開していく戦略だった。仮説→実行→検証→改善のサイクルをとにかく速く回し続けることで、少ないリソースながらも大きな成果を生み出せる体制を構築した。
MAU3倍・新収益源も確立、社内展開されるモデルケースに
この取り組みにより、ユーザー数は驚異的な回復を見せ、緊急事態宣言によってほぼゼロになったMAUは、わずか3〜4ヶ月で元の水準にまで回復。さらに1年後には600万MAUと当初の2倍に成長し、最終的には3年後に900万MAUと3倍の規模に達した。また、これまでと異なるコンテンツジャンルの開拓により、広告収入やアフィリエイト収入の新たな収益源が確立され、マネタイズ効率が大幅に向上した。さらに、この「コロナ危機からの回復劇」は社内の他のサービスにとってもモデルケースとなり、同様のアプローチが水平展開されたことで企業全体の売上と利益の成長に寄与した。本プロジェクト成功の最大の要因は、「答えの見えない状況でも仮説を立て、行動し続ける」という姿勢にあった。正解が誰にもわからない中で、小さな仮説を立てては検証し、そこから得た気づきを次のアクションにつなげていく。このサイクルを高速で回し続けることで、変化する環境に柔軟に対応しながら成長の道を切り開いた。チーム全体が同じ危機感と目標を共有し、個々の気づきをチーム全体の知恵に変換していく文化が、リソース不足という制約を乗り越える原動力となった。
企業
株式会社KAAAN
純広告・記事広告 , コンテンツマーケティング , マーケティング戦略
プロセスでなく、成果を、事業成長を提供
KAAANは、漠然とした企業、事業の業績やマーケティングの課題に対して、現状を把握し、診断し、今、やるべきことを明確化。ゴールに向けて伴走し、業績向上・成果最大化を請負うマーケティングエージェンシーです。
著者
岸 晃
Marketing Director / Consultant
1994年、東京生まれ。2018年にグリー株式会社に新卒入社、SEO中心にBtoCメディアのリリースからグロース、約100名のマネジメント、組織開発、ビジネス開発など総合的な事業作りに携わる。2024年3月にTHE MOLTSに参画し、現在はSEOやコンテンツマーケティングを軸としたメディア・サービスのグロース支援、インハウス運用支援を行う。