大手エンターテイメント企業が直面した、新規動画サービスの収益性低下
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動画配信市場の拡大に伴い、国内大手のインターネット企業が新たな動画プラットフォームサービスを立ち上げ。特にアニメ領域に強みを持ち、特化型のプラットフォームとして期待されていた。サービス開始初期は一定の流入と登録があったものの、1ヶ月を過ぎたころから獲得効率が鈍化。期待する成果が十分に得られず、施策の方向性にもズレが生じていた。また、戦略と市場とのギャップだけではなく、ユーザー獲得を担うマーケティング体制において、経営側と運用チーム間コミュニケーション上の齟齬が明らかになり、意思決定のスピードや施策の打ち手にも影響が出ていた。こうした課題を改善するため、広告経由のユーザー獲得を「3ヶ月でCPAを20,000円から8,000円に削減する」という明確な目標を設定。市場状況に即した戦略の見直しと、チーム・体制の再構築に取り組むこととなった。
広告効率向上に向けた媒体構成の見直し
まず、成果が芳しくなかった要因を洗い出し、無駄の排除を徹底。広告配信の停止やターゲティングの再設計など、各広告媒体の配信形式やキャンペーン、広告グループの構成を見直した。具体的には、CPAに大きく貢献していない媒体やキャンペーン、ターゲットの停止を図った。当初は10媒体ほどあった広告媒体を、パフォーマンスの良い5媒体に集約することで、リソースの集中と効率化を実現した。この過程で課題となったのが、自動入札戦略への過度の依存だった。自動入札に依存していたため、CPCやCPAが悪化し、コストが膨らんでいた。そのため、入札方式も見直し、よりシンプルで意図が反映される手動入札との併用へと切り替えた。フェーズ1を通じて、「数」で勝負するスタイルから「質」への転換を図り、次のフェーズに向けた改善の土台を整えることができた。効率性を重視した広告運用への転換により、コストパフォーマンスの向上が見え始めた。
運用体制の強化とチームスキルの底上げによる組織再構築
次に、運用体制の強化とチーム全体のスキルの底上げを行った。各広告媒体の配信ごとに運用担当者がついていたものの、媒体ごとのベストプラクティスを抑えきれていなかったり、スキルにばらつきがあったりと、認識のズレや進行精度の差が成果にも影響を及ぼしていた。そのため、各運用者ごとに週次ミーティングを実施し、施策の目的や現状の進捗管理、次のアクションプランを共有。透明性を高めながら、スキルの向上とマインドセットの統一を図った。また、業務量によって施策の優先順位がつけられず、アウトプットが弱くなっていたメンバーに対しては、施策の管理表を用いてタスクの可視化と優先度の明確化を実施。成果貢献度に応じた優先順位を明確にすることで、業務の精度とスピードの両立を実現した。この取り組みにより、施策の実効力が高まり、各運用者のレベルアップも達成できた。さらに、経営側とのコミュニケーションにおいても視座が合い始め、週次の定例会を通じた改善提案の質も向上するなど、プロジェクト全体の推進力が強化された。
カテゴリー別戦略とセグメント最適化による持続的成果の創出
フェーズ1と2を通じて効率の安定化が図れたことを踏まえ、より戦略的なユーザー獲得の拡大に取り組んだ。効率を維持しながら成果の最大化を促進するため、カテゴリー別の深掘りとセグメント戦略の強化を実施。まず、リターゲティング配信におけるリーセンシーの再設計を行った。CVまでのスパンを分析した上で、表示頻度の最適化やセグメントの細分化を進めた。サイト訪問者の行動に応じてターゲティングを再編成し、よりCVの可能性が高い層への集中配信を実現する環境を再設計した。また、ユーザーとのコミュニケーション面では、ドラマ、アニメ、映画のジャンル別、オリジナル作品などのカテゴリーごとに広告効果が異なることに着目。コンテンツカテゴリーごとに訴求内容やクリエイティブを変更し、タイトル単位での訴求最適化を図った。これにより、広告の成果や共感度を引き上げることができた。このように、より詳細なデータ分析に基づいたアプローチと、コンテンツの特性を活かした訴求戦略の最適化により、持続的な成果創出の基盤を構築した。
CPAを3ヶ月で60%削減、チームメンバーのスキル底上げにも貢献
3ヶ月間の取り組みの結果、当初掲げていたCPAを20,000円から8,000円に削減するというミッションを達成。マーケティング、特に広告運用部分の戦略最適化によって60%のコスト削減に成功した。さらに、当初のミッションには含まれていなかったが、短期間でマーケティング戦略の立て直しを実現できたことで、より長期的な視点での改善点も明らかになった。たとえば、特定のユーザーが無料期間終了後に退会するケースがあることが判明。これにより、単なる広告運用の調整だけでなく、コンテンツ自体の見直しやコンテンツの継続的提供の必要性など、事業全体の課題も浮き彫りになった。このプロジェクトの成功要因は、既存の広告成果にとらわれずに抜本的な見直しを図れたことにある。まず「無駄を捨てる」ことから始め、広告成果の安定化を図り、そこから次のステップへとつなげる戦略設計を実施できた点が大きかった。単なる広告運用に留まらず、企業とマーケティング全体の方針をすり合わせ、戦略的な広告設計を構築することの重要性を再認識する機会となった。
企業
株式会社KAAAN
純広告・記事広告 , コンテンツマーケティング , マーケティング戦略
プロセスでなく、成果を、事業成長を提供
KAAANは、漠然とした企業、事業の業績やマーケティングの課題に対して、現状を把握し、診断し、今、やるべきことを明確化。ゴールに向けて伴走し、業績向上・成果最大化を請負うマーケティングエージェンシーです。
著者
東山 博行
Marketing Director / Consultant
1986年生まれ。広告代理店で金融比較サイトメディアのディレクション・運用、金融クライアント中心に営業・運用担当者としてアフィリエイトからディスプレイ領域までWEBプロモーション全体の改善に貢献。2019年4月にMOLTSに参画、2023年9月にKAAAN(旧KOEDO)を設立し取締役に就任。リスティング、ディスプレイ、SNS広告の運用・コンサルティングを中心にマーケティングを支援する。