大手化学メーカー、健康メディアの低迷と費用対効果に課題 ステークホルダー巻き込み戦略で8万UUから300万UUへ40倍成長達成

著者: 株式会社KAAAN 寺倉 大史

背景

大手化学メーカーが運営する健康情報メディアは、自社製品の販売促進と企業ブランドの認知向上を目的としていた。しかし、1年間にわたり複数の外部パートナー企業と相当な予算を投じて運営したにも関わらず、月間8万UUという低迷した数字に留まっていた。経営陣からは費用対効果の観点から抜本的な改善が求められ、メディアのグロース戦略の見直しが急務だった。 クライアント企業は上場企業であるため、株主や関係者への説明責任が重視される環境にあった。そのため、本質的な事業課題の解決以上に、PVやUUといった分かりやすい数値での成果が優先される状況だった。健康関連領域という専門性の高い分野において、できる限り短期間でトラフィックを増加させることが最重要課題として設定された。

STEP1

最初に着手したのは、グロース戦略の根拠を明確にすることだった。過去のメディアグロース実績に基づく仮説は持っていたものの、実際のデータ検証なしには適切な戦略を立てることができなかった。さらに、限られた予算を最適配分するため、効果の低い既存施策を特定し、その予算をグロース施策に転用する根拠を作る必要があった。 この段階で最も困難だったのは、データ分析で価値の低さが明確になった施策でも、メディアの核心要素だったり、大手企業特有の関係各所との連携に関わるものだったりして、データのみで判断・変更することができない点だった。単純な数値改善提案では受け入れられない複雑な組織事情が存在していた。 そこで、根拠となるデータと予算、具体的施策を組み合わせ、最小単位でもグロースが実現できる施策への予算配分を、複数回のディスカッションを通じて粘り強く提案した。また、クライアント企業とまず合意を形成し、その上で立場が強い既存パートナー企業にはクライアントから説明してもらうなど、関係者を巻き込んだ根回しを丁寧に実施した。 仮説だけでは交渉のテーブルに乗らないということを痛感した。複雑なステークホルダー環境では、根拠に基づく論理的な提案が信頼獲得と合意形成の絶対条件だった。

STEP2

現状分析と関係者との合意形成ができた後は、理論ではなく実際の証拠を作ることに集中した。独立したばかりで企業としての実績がない状況では、どれだけ理論を語っても、クライアントや既存パートナーから信頼を得ることは困難だった。そのため、具体的な成果を示すことで取るべき戦略アプローチを明確にし、プロジェクトチーム全体の方向性を統一する必要があった。 最大の制約は時間と予算だった。証拠づくりに3ヶ月以上はかけられず、削減できた予算も総額60万円という限られた金額だった。この60万円を使って短期間でグロースの流れを作り、さらにその投資で確実に成果を出さなければ、プロジェクト自体が頓挫するリスクがあった。 この課題を乗り越えるため、過去の信頼できる協力者4人に依頼し、各自1本ずつ高品質なコンテンツを制作してもらった。不確実性の高い状況で確実に成果を出すためには、コンテンツの品質が極めて重要であり、信頼関係のある優秀なライターへの集中投資が最も合理的な選択だった。 4本のコンテンツは予想を上回るパフォーマンスを発揮し、メディア全体への波及効果も生まれた。1ヶ月以内にすべてリリースでき、2ヶ月目には期待していた数値変動が現れ始めた。2ヶ月目に前月比10%のグロース、3ヶ月目にもさらに10%のグロースという順調な伸びを実現し、狙い通りの証拠を作ることに成功した。

STEP3

証拠が生まれたことで、仮説の正しさが実データで証明され、全体予算や組織体制をグロースに向けて再構築できるようになった。既存パートナーとも予算の最適化、組織の最適化について建設的に協議できる環境が整い、チーム全体が同じ方向を向いて取り組める体制が実現した。 しかし、新たな課題も浮上した。単純にトラフィックを伸ばせばよいというわけではなく、最終的には事業課題の解決につなげる必要があった。そのバランスを保ちながら、同時に最速でのグロースも求められるという難しい舵取りが必要だった。 この課題に対しては、ターゲットユーザーの解像度を大幅に向上させることで対応した。同じ健康関連領域のユーザーであっても、「企業の製品を購入してくれる状態」と「グロースに貢献する状態」では、ユーザーの態度や関心度が全く異なることを発見した。異なる状態のユーザーをバランス良く獲得する戦略を構築し、事業貢献とグロースの両立を図った。 この過程で、メディアがグロースすることで生まれる多面的な価値も実感できた。取材機会の増加、新サービスの効果的な告知、収益化手法の多様化、専門家からの協力申し出の増加など、様々な好循環が生まれた。これらの効果を次の目標や目的にどう結びつけるかを考える戦略性の重要さと面白さを体験することができた。

結果

プロジェクトの結果として、短期間でグロースできる曲線を作り、そのまま一気に伸ばすことで、8万UUから300万UUへの40倍成長を2年で実現した。健康関連領域では最大規模のメディアへと成長させることができた。当初は自社製品の販売促進が主目的だったが、それ以外にも広告販売事業、企業の認知度調査事業、サブスクリプション型サービスなど、多様な収益源を構築することに成功した。 クライアント企業側も既存パートナーも、これほどの勢いでのグロースは想定していなかった。大手企業特有の情報取り扱いの厳格さにより、発信できる情報量は他の一般的なメディアより制限があったため、当初は頑張っても80万UU程度という予想だった。しかし、健康関連領域の潜在的な市場ニーズの大きさを適切に捉えることで、期待を大幅に上回る成果を達成できた。 このプロジェクトが成功した最大の要因は、最初の証拠づくりの段階で確実に成果を出せたことだった。60万円という限られた予算で信頼できる4人のライターに依頼し、質の高いコンテンツによる「点」を作れたことが、その後の線、面への展開を可能にした成功の分岐点だった。
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大手化学メーカー、健康メディアの低迷と費用対効果に課題

ステークホルダー巻き込み戦略で8万UUから300万UUへ40倍成長達成

本ケーススタディスタディは、実際にあった事例をもとに組み立てられていますが、匿名性、NDA上の問題により、こちら側が提供した内容、かつ詳細データを掲載しないことを前提にし、意図がずれないように変更されております。また、数値データなどは、誇張がないよう低く掲載されていますので、実際のデータとは異なることがあります。

背景

大手化学メーカーが運営する健康情報メディアは、自社製品の販売促進と企業ブランドの認知向上を目的としていた。しかし、1年間にわたり複数の外部パートナー企業と相当な予算を投じて運営したにも関わらず、月間8万UUという低迷した数字に留まっていた。経営陣からは費用対効果の観点から抜本的な改善が求められ、メディアのグロース戦略の見直しが急務だった。クライアント企業は上場企業であるため、株主や関係者への説明責任が重視される環境にあった。そのため、本質的な事業課題の解決以上に、PVやUUといった分かりやすい数値での成果が優先される状況だった。健康関連領域という専門性の高い分野において、できる限り短期間でトラフィックを増加させることが最重要課題として設定された。

補足要件

  • 健康情報の正確性が最優先事項(大手化学メーカーとしての責任)
  • 業界法規制により誤解を招く表現や根拠不明確な情報は掲載不可
  • 一般的なメディアと比較して発信可能な情報量に制限
  • 既存の複数パートナー企業との関係性維持が必要
  • これまでの取り組みを全面否定せず、改善を図る政治的配慮が必要

具体的なプロセス

STEP 1

データ分析による改善提案の根拠づくり

最初に着手したのは、グロース戦略の根拠を明確にすることだった。過去のメディアグロース実績に基づく仮説は持っていたものの、実際のデータ検証なしには適切な戦略を立てることができなかった。さらに、限られた予算を最適配分するため、効果の低い既存施策を特定し、その予算をグロース施策に転用する根拠を作る必要があった。この段階で最も困難だったのは、データ分析で価値の低さが明確になった施策でも、メディアの核心要素だったり、大手企業特有の関係各所との連携に関わるものだったりして、データのみで判断・変更することができない点だった。単純な数値改善提案では受け入れられない複雑な組織事情が存在していた。そこで、根拠となるデータと予算、具体的施策を組み合わせ、最小単位でもグロースが実現できる施策への予算配分を、複数回のディスカッションを通じて粘り強く提案した。また、クライアント企業とまず合意を形成し、その上で立場が強い既存パートナー企業にはクライアントから説明してもらうなど、関係者を巻き込んだ根回しを丁寧に実施した。仮説だけでは交渉のテーブルに乗らないということを痛感した。複雑なステークホルダー環境では、根拠に基づく論理的な提案が信頼獲得と合意形成の絶対条件だった。

詳細アドバイス
大手企業オウンドメディアの失敗あるあるを防ぐ、目線合わせの方法
大手企業の複雑な環境下でも、立場や感情に依存しない合意形成の進め方
STEP 2

限られたリソースでグロースの証拠づくり

現状分析と関係者との合意形成ができた後は、理論ではなく実際の証拠を作ることに集中した。独立したばかりで企業としての実績がない状況では、どれだけ理論を語っても、クライアントや既存パートナーから信頼を得ることは困難だった。そのため、具体的な成果を示すことで取るべき戦略アプローチを明確にし、プロジェクトチーム全体の方向性を統一する必要があった。最大の制約は時間と予算だった。証拠づくりに3ヶ月以上はかけられず、削減できた予算も総額60万円という限られた金額だった。この60万円を使って短期間でグロースの流れを作り、さらにその投資で確実に成果を出さなければ、プロジェクト自体が頓挫するリスクがあった。この課題を乗り越えるため、過去の信頼できる協力者4人に依頼し、各自1本ずつ高品質なコンテンツを制作してもらった。不確実性の高い状況で確実に成果を出すためには、コンテンツの品質が極めて重要であり、信頼関係のある優秀なライターへの集中投資が最も合理的な選択だった。4本のコンテンツは予想を上回るパフォーマンスを発揮し、メディア全体への波及効果も生まれた。1ヶ月以内にすべてリリースでき、2ヶ月目には期待していた数値変動が現れ始めた。2ヶ月目に前月比10%のグロース、3ヶ月目にもさらに10%のグロースという順調な伸びを実現し、狙い通りの証拠を作ることに成功した。

詳細アドバイス
重要プロジェクトでは、複数人の信頼できる仲間とリスクを分散する
弱者が強者を動かす、客観的な成果で信頼を勝ち取る戦略
STEP 3

全体最適化による本格的なスケールアップ

証拠が生まれたことで、仮説の正しさが実データで証明され、全体予算や組織体制をグロースに向けて再構築できるようになった。既存パートナーとも予算の最適化、組織の最適化について建設的に協議できる環境が整い、チーム全体が同じ方向を向いて取り組める体制が実現した。しかし、新たな課題も浮上した。単純にトラフィックを伸ばせばよいというわけではなく、最終的には事業課題の解決につなげる必要があった。そのバランスを保ちながら、同時に最速でのグロースも求められるという難しい舵取りが必要だった。この課題に対しては、ターゲットユーザーの解像度を大幅に向上させることで対応した。同じ健康関連領域のユーザーであっても、「企業の製品を購入してくれる状態」と「グロースに貢献する状態」では、ユーザーの態度や関心度が全く異なることを発見した。異なる状態のユーザーをバランス良く獲得する戦略を構築し、事業貢献とグロースの両立を図った。この過程で、メディアがグロースすることで生まれる多面的な価値も実感できた。取材機会の増加、新サービスの効果的な告知、収益化手法の多様化、専門家からの協力申し出の増加など、様々な好循環が生まれた。これらの効果を次の目標や目的にどう結びつけるかを考える戦略性の重要さと面白さを体験することができた。

詳細アドバイス
外部委託と内製化のハイブリッド体制で、専門性とスピードを両立する方法
カスタマージャーニーを正しく理解・作成し、CVRを改善する方法

結果または成果

UU40倍成長と事業拡張による業界内外での評価獲得

プロジェクトの結果として、短期間でグロースできる曲線を作り、そのまま一気に伸ばすことで、8万UUから300万UUへの40倍成長を2年で実現した。健康関連領域では最大規模のメディアへと成長させることができた。当初は自社製品の販売促進が主目的だったが、それ以外にも広告販売事業、企業の認知度調査事業、サブスクリプション型サービスなど、多様な収益源を構築することに成功した。クライアント企業側も既存パートナーも、これほどの勢いでのグロースは想定していなかった。大手企業特有の情報取り扱いの厳格さにより、発信できる情報量は他の一般的なメディアより制限があったため、当初は頑張っても80万UU程度という予想だった。しかし、健康関連領域の潜在的な市場ニーズの大きさを適切に捉えることで、期待を大幅に上回る成果を達成できた。このプロジェクトが成功した最大の要因は、最初の証拠づくりの段階で確実に成果を出せたことだった。60万円という限られた予算で信頼できる4人のライターに依頼し、質の高いコンテンツによる「点」を作れたことが、その後の線、面への展開を可能にした成功の分岐点だった。

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企業

株式会社KAAAN

純広告・記事広告 , コンテンツマーケティング , マーケティング戦略

プロセスでなく、成果を、事業成長を提供

KAAANは、漠然とした企業、事業の業績やマーケティングの課題に対して、現状を把握し、診断し、今、やるべきことを明確化。ゴールに向けて伴走し、業績向上・成果最大化を請負うマーケティングエージェンシーです。

著者

寺倉 大史

Media Consultant / Business Producer

1987年、京都生まれ。藍染見習いから2013年株式会社LIGに入社。同社でメディア事業部部長、人事部長を経て、2015年9月からは執行役員を務める。2016年3月にデジタルマーケティングカンパニーを設立し、独立。BtoC、BtoB問わず、戦略からプロジェクトマネジメントを行い、累計200以上のプロジェクトに参画。