大手キャリア支援サービス、顕在層以外に広がらず
新ブランド商材をリリースし、潜在層リーチ&獲得に成功
寺倉 大史
Director
背景
特定のニーズに応じたターゲットを集客するビジネスキャリアサービスを運営していた企業が、提供内容の特性上、顕在層へのアプローチを主軸にしており、既存会員は顕在層の割合が高い状態が続いていた。さらなる事業成長を目指すにあたり、潜在層へのアプローチが不可欠となった。
しかし、具体的な施策を検討する過程で、既存の延長線上でのアプローチに留まり、本当にリーチできているのか、価値提供ができるのか、また戦略として適切であるかが不明瞭な状況に陥った。
たとえば、今後アプローチしたい潜在層のターゲットが利用していると想定される特定のSNSの運用を設計していたものの、それがターゲットに適切な手法なのか判断が難しく、確信が持てない状態が続いていた。
この課題を解決するため、潜在層への適切なアプローチ方法を明確にすることが不可欠と判断。特に、どのようなコミュニケーション設計が理想的なのかをゼロベースで再考する必要が生じた。
補足要件
- 会員の割合は顕在層ユーザー約9割だが、潜在層ユーザー1割強いる状況
- 基盤となる提供サービスの認知度が高く、その延長線上での展開を考えていた
- このサービスの事業化が目的ではなく、基盤となるWebサービスの1商品としてのリリースを検討していた
具体的なプロセス
STEP
1
既存潜在層会員を可視化しターゲットの選定と解像度を一気に引き上げる
ターゲットの範囲が広いため、まず過去の会員データや顧客の声を含む実績コンテンツを整理し、これらのデータを基に改めてセグメンテーションとターゲティングを実施し、主要なターゲットを3つに分類。
次に、過去の会員がどのような課題を抱え、どのプロセスを経て会員化し、成約に至ったのかを分析。カスタマージャーニーマップを作成し、ターゲットごとの行動や意思決定の傾向を整理した。
その結果、従来の訴求とはまったく異なるニーズが存在することが判明し、新たなアプローチが必要であることが明確になった。
STEP
2
ニーズと便益からコンセプトを再設定、コミュニケーション戦略を策定
作成したカスタマージャーニーマップを分析した結果、意思決定の背景や重視されるポイントが仮説とは異なり、「積極的な選択」よりも「状況を踏まえた最適な選択」を求める傾向が強いことが判明。
この違いを踏まえ、ターゲットが求める情報や意思決定のタイミングを整理し、既存のコンセプトを再設計した。この新たなコンセプトを基に、既存の延長ではなく、新しくブランドとして立上げることに。
ブランド名やメッセージのトーンを調整し、ターゲットが共感しやすい表現に再構築。また、サービス提供のあり方や伝えるべき情報を整理し、価値を適切に伝える施策を推進。
さらに、既存の仕組みを活用し、Webサイトの導線や情報設計、ユーザーとの関係構築プロセスを最適化した。
他にも、カスタマージャーニーマップを基に、ターゲットの行動や心理状態に応じた態度ごとの施策、訴求を切り分け、現状想定している施策や、本来行うべき施策を整理。態度ごとに正しいKPIを振り分け、施策をやりたいことから、訴求とKPIが明確化されたやるべき施策を定義。
STEP
3
サイトから施策まで一気通貫したコミュニケーションを調整
カスタマージャーニーマップを基に、マーケティングにおける一連のコミュニケーション施策の流れを可視化し、全体の方向性を明確化。ただし、各施策のディテールについては、協議を重ねながら慎重に推進する必要があった。
たとえば、SNS施策では、プラットフォーム特性を理解しつつ、定義した訴求軸とのバランスを取りながら運用を最適化し、意図したKPIの達成を目指した。
また、新しい施策やブランドサイト、会員動線、既存Webサービス、営業担当者との連携など、多岐にわたる要素を調整しながらリリースを準備。各タッチポイントをチューニングし、UXを向上させることに注力した。
リリース後は、初期に設定したKPIに基づき、各施策の進捗と成果をモニタリング。実際に施策が機能しているかを検証し、改善点を特定。展開後に新たに見えてくる課題を一つずつ解決し、数値の向上を目指して継続的な改善を繰り返した。
結果または成果
新規ブランド立ち上げで潜在層を獲得、一事業のように社内にも浸透
潜在層のターゲットのニーズをしっかりとふかぼることで、既存の延長線上でのアプローチではできなかった潜在層ターゲットの獲得ができた。
また、独自性は高いが、直感的に納得してしまうコンセプトをもとにブランドが立ち上がった結果、ターゲット、クライアント、営業担当者がスムーズに情報を受け入れることが可能となり、従来とは異なる肯定的な反応が得られた。
社内では当初、提供サービスの中の1商品として始まった本プロジェクトが、次第に一事業のように認識され、キャリアの新しい形として浸透した。
さらに、セミナーやSNSでは、既存サービスに対する否定的な意見が一部見受けられた一方で、本ブランドについては「共感した」「新たな学びがあった」「こうした形もあると知った」といったポジティブな反応が増加。これにより、チーム全体の士気が向上し、運営活動にも好影響を及ぼしている。
こうした成果は、ブランドコンセプトの明確化とターゲット層への適切な訴求の結果といえる。

