毎月10本公開するメディア、100本作れるようになったら生産性は何倍か

毎月10本公開するメディア、100本作れるようになったら生産性は何倍か

「AIを導入したら生産性が10倍になりました」

こういう話、最近よく聞きます。記事の作成スピードが上がった、リサーチの時間が短縮された、企画のたたき台が一瞬で作れるようになった。

確かに、個人の作業効率は劇的に上がっています。それは事実です。

でも、私はいつも違和感を覚えます。

「で、プロジェクトの成果はどうなったんですか?」

この質問をすると、急に歯切れが悪くなることが多い。生産性は上がったはずなのに、最終的なアウトプットはあまり変わっていない。そういうケースが、実はかなり多いんです。

なぜそうなるのか。私がよく使う質問があります。

「毎月10本の記事を公開しているメディアがあります。AIを導入して、月100本の記事を作れるようになりました。生産性は何倍になったでしょうか?」

ほとんどの人が「10倍」と答えます。

でも、私の答えは違います。

レビューが10本分しかできなかったら?

記事を100本作れるようになった。それは確かにすごいことです。

でも、その100本をレビューする人のリソースは、10本分のままだったらどうなるでしょうか。

レビューを通過できるのは10本。

入稿作業をする人のリソースも10本分だったらどうなるでしょうか。

公開できるのは10本。

つまり、個人の生産性は10倍になっても、プロジェクトの成果は1倍のままなんです。

残りの90本はどうなるか。レビュー待ちの行列に並ぶことになります。そして来月、さらに100本が追加される。行列は190本になる。再来月は280本。どんどん膨れ上がっていく。

これ、笑い話じゃないんですよ。実際に起きていることです。

「生産性が上がった」の罠

AI導入の成果報告でよく聞くのが、こういう話です。

「記事の作成時間が1本あたり8時間から2時間に短縮されました」 「リサーチにかかる時間が1/10になりました」 「月に作成できる記事数が10本から100本に増えました」

どれも事実だと思います。個人の作業効率は確実に上がっている。

でも、その報告には続きがあるはずなんです。

「で、公開本数は何本から何本になったんですか?」 「リードは何件から何件に増えたんですか?」 「売上はどう変わったんですか?」

ここを聞くと、急に歯切れが悪くなることが多い。

「えーと、公開本数は…まだ10本くらいですね」 「リードは…まあ、これからですね」

つまり、作れるようになっただけで、出せてはいない

これが「生産性が上がった」という言葉の罠です。作業効率の向上と、プロジェクトの成果向上を混同してしまっている。

見落とされがちなボトルネック

AIを導入すると、特定の工程が劇的に速くなります。

記事の執筆、リサーチ、データ整理、企画のたたき台作成。こうした作業は、AIによって10倍どころか、100倍近く速くなることもあります。

しかし、プロジェクトにはAIで速くならない工程が必ず存在します。

ボトルネック 具体例 なぜ速くならないか
レビュー・確認 品質チェック、事実確認、トンマナ調整 人間の判断が必要
入稿・公開 CMS入力、画像設定、メタ情報設定 手作業が残る
承認プロセス 上長確認、法務チェック、関係者調整 組織のルールに依存
フィードバック対応 修正依頼、差し戻し対応 コミュニケーションが発生
意思決定 方針決定、優先順位付け 会議体に依存

これらの工程がボトルネックになっていると、前工程がどれだけ速くなっても、最終的なアウトプットは変わりません。

プロジェクト全体のスループットは、最も遅い工程の処理能力で決まるんです。

工程 従来 AI導入後 ボトルネック
執筆 10本/月 100本/月
レビュー 10本/月 10本/月
入稿 10本/月 10本/月
公開 10本/月 10本/月

執筆が10倍になっても、レビューと入稿がボトルネックのまま。結果、公開本数は変わらない。

個人の加速とプロジェクトの加速は別物

ここで大切なのは、個人の生産性が上がることと、プロジェクトの成果が上がることは、まったく別の話だということです。

私たちもこの問題に直面しました。

メンバーそれぞれがAIを使いこなすようになった。調べものは速くなった、ドキュメントを作るのも楽になった、アイデア出しも捗るようになった。体感として、以前の5倍10倍のスピードで作業できるようになった。

でも、プロジェクト全体の成果を見ると、以前とあまり変わっていない。

「おかしいな」と思いました。個人個人は確実に速くなっているのに、プロジェクトとしてのアウトプットが増えていない。

原因を探っていくと、見えてきたのはプロジェクト設計が旧来のままだという事実でした。

個人が速くなっても、週次の定例会議は週1回のまま。レビュー担当は1人のまま。承認フローは3段階のまま。

個人の速度が10倍になっても、プロジェクトの構造が変わっていなければ、成果は1倍のまま。当然の結果でした。

サーキットを走るには、道も変える必要がある

私たちはこれを、F1マシンと一般道の関係で説明しています。

従来の働き方は、時速60kmで走る普通の自動車のようなものでした。一般道を走って、信号で止まって、また走り出す。それが普通のスピードでした。

AIを導入すると、いきなりF1マシンに乗り換えたようなものです。時速300kmで走れるポテンシャルがある。エンジンの性能が桁違いに上がった。

でも、多くのプロジェクトで起きているのは、F1マシンに乗り換えたのに、一般道を走り続けているという状況です。

信号で止まる(=承認待ち)。制限速度を守る(=既存のルールに従う)。他の車に合わせる(=他部署との調整)。せっかくF1マシンに乗っているのに、時速60kmで走っている。

F1マシンの性能を発揮するには、サーキットが必要です。専用のコースで、障害物なく、全力で走れる環境。

プロジェクトも同じです。個人が速くなったなら、プロジェクト全体も速く回る仕組みに変えないといけない

一般道のままF1マシンを走らせても、スピードは出ない。それどころか、渋滞を引き起こすだけです。90本のレビュー待ち行列が、まさにそれ。

「個人の効率化」を推進しても意味がない

よくある失敗パターンがあります。

「AI活用を推進しよう」という号令がかかる。研修が行われる。「ChatGPTの使い方」「プロンプトの書き方」「業務効率化のコツ」。

個人個人はAIを使えるようになる。作業は速くなる。満足度は上がる。

でも、プロジェクトの成果は変わらない。

なぜか。個人の効率化を推進しても、プロジェクトのボトルネックは解消されないからです。

100人がAIを使いこなせるようになっても、レビュー担当が1人のままなら、プロジェクトのスループットは1人分のまま。

個人の効率化は、それ自体が目的になってはいけない。あくまで、プロジェクトの成果を上げるための手段でしかない。

求められているのは「プロジェクトの成果」

AIを導入する目的は何でしょうか。

「個人の生産性を上げること」ではないはずです。

「AIを使いこなせる人材を増やすこと」でもない。

本当に求められているのは、プロジェクトの成果をより大きく、より短い時間で出すこと

売上を上げる。リードを増やす。プロジェクトの完了を早める。顧客への価値提供を増やす。

これがゴールであって、個人の生産性向上はそのための手段でしかありません。

そのためには、個人の生産性を上げるだけでは不十分です。

  • ボトルネックになっている工程を特定する
  • レビューや承認のプロセスを根本から見直す
  • 一人がカバーできる範囲を広げる
  • 関わる人数を減らして意思決定を速くする
  • 週次の会議を日次に、日次を随時に変える

こうしたプロジェクト全体の設計変更が必要になります。

まず旗を立てる

では、どうすればいいのか。

私たちが大切にしているのは、個人がAIをどう使うかを推進することではなく、まず旗を立てることです。

「月100本公開する」という旗を立てる。

そうすると、今のやり方では無理だということが明確になります。

「レビュー担当1人じゃ回らないな」 「週1回の定例じゃ遅すぎるな」 「承認フロー3段階も要らないな」 「そもそも、この工程自体が不要なんじゃないか」

旗があると、何を変えなければいけないかが見えてくる

旗がないと、個人の効率化で終わってしまいます。「AIを使って執筆が速くなりました」「便利になりました」で満足してしまう。でも、プロジェクトの成果は変わっていない。誰も困っていないから、誰も変えようとしない。

旗を立てて、そこに向かって走る。その過程で、プロジェクト全体の設計が変わっていく。ボトルネックが可視化されて、一つずつ潰されていく。

個人にAIの使い方を教えるより、プロジェクト全体のゴールを再定義する方が先だと私たちは考えています。

「AIを導入しよう」ではなく、「成果を10倍にしよう」。

この順番が大事です。

最後に

「生産性10倍」という言葉に惑わされないでください。

大切なのは、最終的なアウトプットがどれだけ増えたか、どれだけ速くなったかです。

個人の生産性が10倍になっても、プロジェクトの成果が1倍のままなら、それは成功とは言えません。

AIという強力なエンジンを手に入れた今、問われているのは「どう使いこなすか」ではなく、**「プロジェクト全体をどう再設計するか」**です。

F1マシンを手に入れたなら、サーキットも用意する。そこまでやって初めて、AIの恩恵を本当の意味で受け取れるのではないでしょうか。

まず、旗を立ててください。

そこに向かって走り始めれば、変えなければいけないことが自然と見えてきます。

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AI

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著者

寺倉 大史

寺倉 大史

Director

業界歴10年以上。マーケティング全体の戦略、プランニング、PM、組織開発など幅広く累計100社以上を支援。藍染職人、株式会社LIG執行役員を経て、デジタルマーケティングカンパニー『MOLTS』を設立。

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