企業、サービス、プロダクトの訴求軸を設計する際、競合他社、自社、ターゲットの解像度を高めることは一般的に重要とされる。それ自体に問題はないが、市場全体がどのように捉えられているかを考慮することで、これまで見えていなかった問題点や、より効果的な訴求軸を発見できる場合がある。例えば、ある飲食店は、自社をテイクアウトもできるレストランと捉えていた。しかし、ターゲットからは、提供メニューやテイクアウトが気軽にできるためファーストフード店として認識されていた。ターゲットはファーストフード店であれば、5分前後で商品を受け取ることができ、予算もそれほど高くはないと考えていた。しかし、その飲食店では商品の提供時間が15分前後であり、一般的なレストランからすると早いが、ファーストフード店としては遅いという評価になり、不満が生まれた。というような、企業側とターゲット側のギャップが生じることはよくある。この問題の本質は、提供側と受け手側の市場の認識の違いにある。また、受け手側が認識している市場によって、サービスやプロダクトの評価や満足度が変わってしまう。そのため、対象となる企業やサービスがどの市場に属しているのかを正確に把握し、顧客の認識を理解することで、適切なコミュニケーション設計や問題点の特定が可能となる。
具体的には、顧客の解像度を上げてカスタマージャーニーマップを引く。そして、顧客が対象企業やサービスを捉えている市場と、その市場がどう思われているのかを定義。その上で、1.捉えられている市場は適切なのか 2.市場のイメージが顧客の態度変容を制限していないか 3.市場のイメージを変化すれば、より良い訴求は生まれないかなどを問うことで、市場変更や、市場に対してギャップを作るアイデア、追加で取るべきコミュニケーションなどが見えてくる。先ほどの飲食店の例でいうと、提供側が「レストラン」として認識しているのに対し、顧客が「ファーストフード店」として捉えている場合、この市場認識が適切かどうかをまずは検討する必要がある。ファーストフード店としてのスピード感を重視するのか、レストランとしての品質を優先するのかを決めたら、適切な施策を設計する。ファーストフード的な要素を強化するなら、提供スピードを短縮するための施策(メニューの見直し、注文プロセスの改善、セミセルフレジの導入など)を検討する。レストランとしての位置づけを強化するなら、「出来立ての美味しさ」や「ゆっくり食事を楽しめる空間」といった訴求軸を強調し、ターゲットの期待値を調整する。このようにカスタマージャーニーマップを活用して、市場の認識ギャップを理解し、顧客の態度変容を促すための適切な施策を講じることで、顧客の期待と提供価値のズレを解消し、満足度の向上と集客強化につなげることができる。この考え方は、ニッチではない市場で、レッドウォーシャンにいるサービスの改善や、マイノリティの顧客層のシェアを広げる、リブランディングの実施を考えているなど、全体的にコミュニケーション設計自体を見直す際にかなり有効となる。