AI活用プロジェクトの立ち上げに際し、社内のリテラシー格差が課題となった。基礎的なツール操作は可能なものの、設計や応用レベルでの活用には温度差があり、全社展開の足並みをそろえることが困難だった。 一般的には段階的な社内浸透を図る方法が採られやすいが、導入の遅れは競合との差を広げるリスクを伴う。実際、全社展開を優先した他社では、調整業務や対応工数が増え、現場の実装が進まないケースも見られた。 このような状況下で、熱量の高い一部メンバーが先行して取り組む方が、組織全体としての前進に直結するという仮説に基づき、導入アプローチを再設計する必要があった。

AIの時代では、10人が1歩進むより、熱量のある1人が100歩、1000歩進む方が意味があるという考え方から、意欲のあるメンバーの選抜導入に方針を切り替えた。参加は任意とし、「自ら習得したい意思があること」を基準に選定を行った。評価制度への反映は行わず、完全に自主性に委ねる体制とした。 メンバーの選定は、「AIでコンテンツを作りたいか」というシンプルな問いかけを行った。10人に声をかけた結果、全員が前向きに参加を表明し、初期段階でスタンスが合っている状態を構築できた。これにより、導入後の指導負荷や温度差による摩擦を未然に防止できた。 技術的なハードルを下げるため、CursorとGoogle Driveを組み合わせ、操作性と管理のしやすさを重視した。事前にファイルとフォルダを用意し、Zoomを通じて手順を共有。導入障壁の排除に注力した。 重要だったのは、やることを3つ程度に絞り込み、シンプルな操作でカンバライティングができるレベルまでプロンプトを作り込んだこと。1本目の制作で大半のメンバーが習得できた。このことから、習得の成否は技術的スキルよりも、プロンプト設計と構造理解に大きく依存することが分かった。 このアプローチにより、管理コストを抑えつつ、短期間で実践者を育成。熱量の高い人材が先行して成果を出すことで、組織内に波及効果を生み出す構造を確立できた。