多くの企業がオンラインとオフラインの両方でサービスを展開しているなかで、実店舗の雰囲気とWebサイトの見た目がまったく違っていたり、SNSと商品パッケージで伝えているメッセージにズレがあなど、ブランドの印象が接点ごとにバラバラになってしまう問題がある。このような統一感のなさは、主に運用体制がオンラインとオフラインで分かれていることが原因だ。部署ごとに判断基準が違うことで、ブランドとしての一貫性が保たれず、結果としてユーザーが触れるたびに違うブランドに見えてしまう。他にも、SNSではカジュアルで親しみやすい投稿をしているのに、公式サイトではフォーマルすぎる表現になっている、などのズレが発生しがちだ。このまま放置すると、ユーザーは接点ごとにバラバラな印象を受け、ブランドとしての信頼感が薄れる。また、せっかく用意したコンテンツや素材も、連携が取れていないことで再利用しづらく、運用効率も下がってしまう。複数チャネルでユーザーと接点を持つ企業ほど、こうした一貫性の欠如が大きな損失につながる。
こういった問題を予防し、ブランド体験に一貫性を持たせるためには、どの接点でも共通して伝えるべき「ブランドの軸」を明確にする必要がある。色、フォント、写真の雰囲気、言葉のトーンなど、ブランドの印象を形づくる要素を最初に定義し、それをすべてのチャネルに適用できるようガイドラインを作ることが出発点となる。たとえば、店舗とECサイトの両方で同じトーンや方針に基づく接客や表現が使われていれば、ユーザーは場所が変わっても同じブランドに触れている感覚を持てる。また、SNSで使用する写真や言葉も、商品パッケージやWebサイトと共通の基準で運用すれば、タッチポイントが変わっても体験の質がぶれにくい。実際の取り組みとしては、次のようなステップが有効。 1. タッチポイントごとの役割を整理するどのチャネルでどんな情報を伝えるか、チャネルごとの特性、顧客導線を設計する。・既存のチャネル、将来的に追加する可能性があるチャネル全体を洗い出し、役割や顧客がどういう状況で接触するのかを整理、可視化する・オンライン・オフラインの連携するポイントの特定 2. ブランドガイドラインを作る1で整理した役割に合わせ、視覚要素や言葉づかいのルールを定め、チーム全体で共有する。・色彩、フォント、ロゴの使用方法などの視覚的要素・言語表現やコミュニケーションスタイル・写真・映像の撮影・編集ガイドライン・オンラインでもオフラインでも使用できる素材を意識する 3. オンライン・オフラインの運用体制を連携、統合する仕組みを作る情報共有の仕組みをつくり、別部署でも最低限の共通理解をもてる状態をつくる。・写真やロゴなど利用可能な素材がまとまった一元管理を行える場所作り ・一元管理をしている場所を起点とした情報発信 こういった取り組みをすることで、どの接点からブランドに触れても「ブランドらしさ」が感じられることは、信頼の蓄積につながる。ただし、最初からすべてを完璧にそろえる必要なく、まずは主要な接点から共通ルールを適用し、徐々に他チャネルにも広げていくアプローチが現実的。部分的な整備であっても、ブランド体験の質が改善され、素材の再利用や運用の効率化にもつながる。地道でも最低限の仕組みから始めることで、ブランドの一貫性を持続的に保つことができる。