新しいプロダクトを開発するとき、最初からすべての機能を詰め込もうとすると、途中で仕様が破綻したり、開発が遅延したりするリスクが高い。特に初期段階では、関係者同士の認識がバラバラだったり、顧客ニーズの解像度がまだ低かったりするため、仕様やUIのズレも起きやすい。こうした状況で無理に全体をつくろうとすると、リソースが分散してしまい、軌道修正も難しくなる。結果として、「つくったけれど使われない」「複雑すぎて運用されない」といった失敗につながりやすい。そこで有効なのが、段階ごとにプロトタイプを設計し、必要最小限から始めて、ユーザーの反応を見ながら進化させていく方法だ。この進め方は、プロダクトの完成度を高めるだけでなく、チーム内の認識をそろえたり、ユーザーにとって本当に必要な機能を見極める上でも効果的な方法となる。
具体的には、初期、中期、後期の大まかに3つのフェーズに分けて考える。各フェーズの目的や開発スコープを明確にしておくことで、プロジェクト全体が進めやすくなり、開発リスクの軽減にもつながる。 フェーズ1: 初期プロトタイプ ― 最小構成で検証する初期フェーズでは、「基本機能の動作確認」と「全体構造の検証」にフォーカスする。たとえば、点検業務を支援するシステムであれば、「点検データを記録・保存する」という最低限の機能だけを実装し、現場でどのように使われるかを試してみる。この時点では、UIの完成度やデザインの細かさよりも、「データが記録できるか」「操作が現場にフィットするか」といった実用面の確認が優先される。すべての機能を詰め込まず、まずは動くミニマムなものを早く出す。そこから現場の反応を集めることで、「実際の使われ方」をもとに次の改善点が見えてくる。このフェーズでは、「間違っていてもいいから試してみる」ことに価値がある。社内外で実地検証をしながら、進むべき方向を見極めていくのが目的になる。 フェーズ2: 中期プロトタイプ ― 実務レベルの体験設計へ中期フェーズでは、初期に出したプロトタイプに対して得られたフィードバックをもとに、より現場で“使える”状態に進化させていく。たとえば、初期で入力できるだけだったデータを、「カテゴリごとに整理する」「グラフやレポートに変換する」といった機能を追加して、情報の可視化や活用を意識した設計へと移行する。この段階で注意したいのは、機能が増えるほど「システム全体の一貫性」が崩れやすくなる点。たとえば、複数の画面で操作や用語のルールが違っていたりすると、ユーザーは混乱してしまう。そのため、「拡張しながらも整合性を保つ」視点が必要になる。中期フェーズでは、「どの機能をどの順番で足すか」だけでなく、「全体としてどうつながっていくか」の設計が重要になる。また、異なる業種・ユースケースへの展開も視野に入れながら、柔軟にカスタマイズできる構造を意識しておくと、今後の展開に耐えられるプロダクト設計になる。 フェーズ3: 後期プロトタイプ ― 仕上げと最適化へ後期フェーズでは、これまで積み重ねてきた要素を整理・統合し、完成版に近づけていく。中期までに追加された個別の機能やUI要素を見直し、「操作ルールの統一」「見た目の一貫性」「ナビゲーションの整理」などを行うことで、全体として洗練されたプロダクトを目指す。たとえば、画面ごとに異なっていた色やレイアウトを統一し、デザインシステムとして整備する。これにより、ユーザーにとってわかりやすく、使いやすいプロダクトへと近づけていける。また、このフェーズでは「ブランドとしての表現」も意識する必要がある。製品としての世界観やトーン&マナーを明確にし、競合との差別化や認知度向上にもつなげていく。機能面だけでなく、「どう見えるか」「どう伝わるか」までを含めてプロダクトの完成度を高めるのが、後期プロトタイプの役割となる。段階ごとにプロトタイプを定義し、検証と改善を重ねていくことで、最終的に「ちゃんと使われるプロダクト」を実現できる。