プロダクト開発が進む中期フェーズでは、初期に実装した最低限の機能に加えて、さまざまな追加要素が増えてくる。しかし、この段階で全体の「体験の流れ」を意識せずに機能を追加していくと、ユーザーにとって操作がバラバラでわかりにくくなる。結果として、プロダクトの目的が達成しづらくなるケースがある。たとえば、ドローンの飛行ログを取得する機能が先に作られていたとする。後から追加されたログ分析やレポート出力の画面が別メニューで独立していた場合、ユーザーは何度も画面を行き来することになり、使い勝手が悪くなる。初期プロトタイプでは「ログが取れればよい」と定義していたとしても、その設計のまま新機能を積み重ねていくと、全体の構造がちぐはぐになりやすい。気づけば、操作が細切れになり、どこで何をすればよいか分かりづらいプロダクトになってしまう。こうした状況を防ぐには、機能ごとの実装に入る前に「ユーザーはどんな流れで目的を達成するのか」という視点で、主要な操作シナリオを整理しておくことが必要となる。
具体的には、「ユーザーがどの順番で、何をして、どこにたどり着くか」を一連の体験として定義する。たとえば、「運行ログを取得→データを分析→レポートとして出力」という流れになるとする。そのすべてがスムーズにつながる状態をプロトタイプでつくり、実際に触って検証できるようにする。このような体験フローを明確にしておくことで、設計段階から「この画面の次はどこへ遷移するのか」「どの情報が引き継がれるべきか」といった論点が見えてくる。また、後から追加される機能に対しても、「この体験フローにどう組み込むべきか」と判断しやすくなる。検証の際には、実際のユーザーの操作感をもとに「どこで迷ったか」「戻りたくなった箇所はどこか」といった細かい観察が重要になる。そこから改善の優先順位をつけることで、使いやすさの向上と開発効率の両方を実現できる。このタイミングで、インターフェースの統一性にも意識を向けたい。たとえば、ボタンの配置やサイズ、導線のパターンがページごとに違っていると、ユーザーは戸惑ってしまう。そのため、デザインガイドラインやスタイルガイドを整備し、全体のUI設計に一貫性を持たせておくとよい。定義された主要な体験フローは、今後の開発の「軸」になる。プロダクトが成長する中で新機能が追加されていっても、この軸があることで設計のブレが減り、ユーザーにとって自然な体験を保ち続けられる。体験設計を「あとから整えるもの」と捉えるのではなく、「中期フェーズから先に決めておくべきもの」と位置づけることで、プロダクトの完成度は大きく変わってくる。