
カスタマージャーニーマップの作り方|成果につなげる5つのステップと活用法
デジタルマーケティングの普及により、顧客との接点は多様化し、購買行動は複雑化しています。このような環境において、顧客を深く理解し、適切なタイミングで適切なコミュニケーションを取ることの重要性はますます高まっています。
一方で、以下のような声も増えています。
- カスタマージャーニーマップを作ったことがあるが、作って終わりになってしまった
- ペルソナやフェーズの設定方法がよく分からず、自己流で進めている
- マーケティング部門と営業部門で顧客像の認識がズレている
そこで本記事では、弊社がこれまでのマーケティング支援で培ってきた知見を活かして、カスタマージャーニーマップの基本的な考え方から、成果につなげるための具体的な作成手順、そして継続的な運用方法までを解説します。
目次
カスタマージャーニーマップとは
まず、カスタマージャーニーマップの基本的な概念と、なぜ多くの企業が取り組んでいるのかを理解しましょう。カスタマージャーニーマップを正しく理解することで、単なるフレームワークの作成ではなく、事業成果につながる活用が可能になります。
カスタマージャーニーマップの定義と目的
カスタマージャーニーマップとは、顧客が商品やサービスを認知してから購入・利用・継続に至るまでのプロセスを、行動・思考・感情・タッチポイントの観点で時系列に可視化するフレームワークです。「カスタマージャーニー」という言葉は直訳すると「顧客の旅」を意味し、顧客が自社の商品やサービスと出会い、購入を決定し、利用し続けるまでの一連の体験を「旅」に例えて捉える考え方に基づいています。
カスタマージャーニーマップを作成する主な目的は、顧客視点でマーケティング施策を設計することにあります。企業側の視点だけで施策を考えると、「このキャンペーンを打てば売上が上がるだろう」「この広告を出せば認知が広がるだろう」といった一方的なコミュニケーションになりがちです。しかし、実際の顧客は自分自身の課題解決や目的達成のために行動しており、企業の都合に合わせて購買行動を変えることはありません。
カスタマージャーニーマップを通じて顧客の行動や心理を可視化することで、顧客がどのような課題を抱え、どのような情報を求め、何をきっかけに態度変容するのかを把握できます。これにより、押し付けではない、顧客に寄り添ったコミュニケーション設計が可能になるのです。
また、カスタマージャーニーマップは「現状の顧客体験(As is)」と「理想の顧客体験(To be)」の両方を描くことで、改善すべきポイントを明確にする役割も果たします。現状と理想のギャップを可視化することで、どこに課題があり、どのような施策を打つべきかが見えてきます。
カスタマージャーニーマップを作成するメリット
カスタマージャーニーマップを作成することで、企業は複数のメリットを得ることができます。
顧客理解の深化と共通認識の形成
カスタマージャーニーマップを作成するプロセスでは、顧客の行動や心理を詳細に検討する必要があります。このプロセス自体が顧客理解を深める機会となります。また、作成されたマップは組織内での共通言語となり、マーケティング部門、営業部門、カスタマーサポート部門など、異なる部門のメンバーが同じ顧客像を共有できるようになります。
組織において「顧客」に対する認識がバラバラだと、部門ごとに異なるメッセージを発信してしまったり、施策の方向性が噛み合わなかったりする問題が生じます。カスタマージャーニーマップによって共通認識を形成することで、一貫した顧客体験を提供できる体制が整います。
施策の最適なタイミングとチャネルの特定
カスタマージャーニーマップでは、各フェーズにおける顧客の行動やタッチポイントを整理します。これにより、どのタイミングでどのようなコンテンツを、どのチャネルを通じて届けるべきかが明確になります。
例えば、情報収集段階の顧客に対しては、課題解決に役立つノウハウコンテンツを検索エンジンやSNSを通じて届けることが効果的でしょう。一方、比較検討段階の顧客に対しては、導入事例や製品比較資料をメールやウェビナーで提供することが購買決定を後押しします。このように、顧客の状態に合わせた施策設計ができるようになります。
部門横断でのコミュニケーション改善
カスタマージャーニーマップの作成は、マーケティング部門だけで行うものではありません。営業部門やカスタマーサポート部門など、顧客と接点を持つ複数の部門を巻き込んで作成することで、より精度の高いマップが完成します。
この作成プロセス自体が、部門間のコミュニケーションを活性化させる効果があります。普段は別々の業務を行っている部門が、「顧客」という共通のテーマで議論することで、お互いの視点や課題を理解し、連携が強化されます。特にBtoB企業においては、マーケティングと営業の連携が成果に直結するため、この効果は大きいと言えます。
カスタマージャーニーマップ作成の準備
カスタマージャーニーマップを効果的に作成するためには、事前の準備が重要です。特にペルソナの設定とゴール・フェーズの設計は、マップの精度を左右する重要な要素となります。
ペルソナの設定方法
ペルソナとは、自社の製品・サービスのターゲットとなる架空の人物像を、具体的なイメージに落とし込んだものです。「30代の会社員」のような曖昧なターゲット設定ではなく、実在する人物かのように具体的な属性や行動特性を定義します。
ペルソナを設定する際には、以下の項目を含めることが一般的です。
基本属性
- 年齢、性別、職業、役職
- 所属企業の業種、規模(BtoBの場合)
- 居住地域、家族構成
行動特性
- 情報収集の方法(検索、SNS、展示会など)
- よく利用するメディアやサービス
- 一日の過ごし方
課題・ニーズ
- 現在抱えている課題や悩み
- 達成したい目標
- 購買の動機となる要因
価値観・性格
- 意思決定の傾向(慎重派か即断派か)
- 重視する価値観(コスト重視か品質重視かなど)
BtoB企業の場合、ペルソナ設定には特別な配慮が必要です。BtoBの購買プロセスには複数の意思決定者が関与することが多く、担当者、推進者、決裁者といった異なる役割の人物が存在します。そのため、「企業ペルソナ」と「担当者ペルソナ」を分けて作成することが推奨されます。
企業ペルソナでは、業種、売上規模、従業員数、企業風土などを定義します。担当者ペルソナでは、具体的な個人の属性、役職、KPI、抱えている課題などを定義します。購買プロセスに関わる複数の人物(例:情報収集担当者、プロジェクト推進者、最終決裁者)それぞれのペルソナを作成することで、より実態に即したカスタマージャーニーマップを描くことができます。
ペルソナの設定において最も重要なのは、想像や希望ではなく、事実に基づいて作成することです。既存顧客へのインタビュー、営業担当者へのヒアリング、CRMやSFAに蓄積されたデータの分析など、様々な情報源を活用して、実際の顧客像を反映したペルソナを作成しましょう。自社の都合の良い顧客像を描いてしまうと、現実とかけ離れたカスタマージャーニーマップになってしまいます。
ゴールとフェーズの設計
カスタマージャーニーマップを作成する前に、マップの「ゴール」を明確にする必要があります。ここでいうゴールとは、マップ上で顧客がたどり着く最終地点のことです。
ゴールの設定例として、以下のようなものが考えられます。
- 問い合わせ・資料請求
- 製品の購入・契約
- 会員登録・無料トライアル申込
- リピート購入・継続利用
- 他者への推奨・紹介
ゴールによって、マップに含めるべきフェーズや検討すべき要素が変わってきます。例えば、新規顧客の獲得をゴールとする場合は「認知」から「購入」までのフェーズを描きます。一方、継続利用や推奨をゴールとする場合は、購入後の「利用」「継続」「推奨」といったフェーズも含める必要があります。
フェーズの設計は、顧客の購買心理に基づいて行います。一般的なフェーズの例として、以下のようなものがあります。
認知・興味関心フェーズ 顧客が課題を認識し、解決策を探し始める段階です。まだ具体的な製品やサービスについては知らない、あるいは名前を聞いたことがある程度の状態です。
情報収集・理解フェーズ 顧客が積極的に情報を集め、解決策の選択肢を把握する段階です。複数の製品やサービスについて調べ、基本的な理解を深めていきます。
比較検討フェーズ 顧客が複数の選択肢を比較し、自社に最適なものを選ぼうとする段階です。価格、機能、サポート体制など、様々な観点から比較が行われます。
購入・導入フェーズ 顧客が購入を決定し、実際に導入する段階です。契約手続きや導入作業が行われます。
利用・継続フェーズ 顧客が製品やサービスを利用し、継続的に価値を得る段階です。満足度が高ければ継続利用や追加購入につながります。
上記はあくまで一般的な例であり、自社の事業特性に応じてフェーズをカスタマイズすることが重要です。検討期間が短い商材であれば「情報収集」と「比較検討」を一つのフェーズにまとめることもあります。逆に、複雑なBtoB商材では「社内稟議」「導入準備」といったフェーズを追加することもあります。
カスタマージャーニーマップの作り方5ステップ
準備が整ったら、実際にカスタマージャーニーマップを作成していきます。ここでは、成果につなげるための5つのステップを順に解説します。
ステップ1|タッチポイントの洗い出し
最初のステップは、顧客と企業の接点(タッチポイント)を網羅的に洗い出すことです。タッチポイントとは、顧客が企業やブランドと接触するあらゆる場面を指します。
タッチポイントは大きくオンラインとオフラインに分けることができます。
オンラインのタッチポイント
- 検索エンジン(自然検索、リスティング広告)
- 自社Webサイト・オウンドメディア
- SNS(公式アカウント、広告、口コミ)
- メールマーケティング(メルマガ、ステップメール)
- Web広告(ディスプレイ広告、動画広告)
- ウェビナー・オンラインセミナー
- 比較サイト・レビューサイト
オフラインのタッチポイント
- 展示会・イベント
- セミナー・勉強会
- 営業担当者との商談
- 電話(問い合わせ、インサイドセールス)
- DM(ダイレクトメール)
- 店舗・ショールーム
- 紹介・口コミ
タッチポイントを洗い出す際は、自社が主導する接点だけでなく、顧客が自発的に行う行動も含めることが重要です。例えば、顧客がSNSで競合製品の口コミを調べる行動も、重要なタッチポイントの一つです。
また、タッチポイントとチャネルの違いを理解しておくことも大切です。チャネルは「媒体」を指し、タッチポイントは「その媒体で発生する接触体験」を指します。例えば、「Instagram」はチャネルですが、「Instagramで広告を見て興味を持った」「Instagramで導入事例の投稿を見た」はそれぞれ別のタッチポイントです。
タッチポイントの洗い出しは、一人で行うのではなく、複数の部門のメンバーを集めて行うことをお勧めします。マーケティング部門はオンラインの接点に詳しい一方、営業部門は商談時の顧客の反応をよく知っています。異なる視点を持つメンバーが集まることで、漏れのない洗い出しが可能になります。
ステップ2|顧客行動の整理
タッチポイントを洗い出したら、次は各フェーズにおける顧客の行動を時系列で整理します。ペルソナが各フェーズでどのような行動を取るかを具体的に記述していきます。
行動を整理する際は、できるだけ具体的に記述することがポイントです。「情報を収集する」という抽象的な記述ではなく、「検索エンジンで『業務効率化 ツール 比較』と検索する」「上位に表示された記事を3つ読む」「気になったツールの公式サイトを訪問する」のように、具体的なアクションとして記述します。
また、顧客行動を整理する際には、以下の点に注意しましょう。
顧客視点で考える 企業側が「こう行動してほしい」と思う理想の行動ではなく、顧客が実際に取るであろう行動を記述します。顧客は必ずしも企業の想定通りに動くわけではありません。競合製品を調べる、口コミを確認する、社内で相談するなど、企業にとって都合の悪い行動も含めて記述します。
根拠に基づいて記述する 想像だけで行動を推測するのではなく、可能な限り根拠に基づいて記述します。既存顧客へのインタビュー、Webサイトのアクセス解析データ、営業担当者からのヒアリングなど、様々な情報源を活用しましょう。
複数人で検討する 一人の視点では偏りが生じやすいため、複数人で検討することが重要です。特に、実際に顧客と接している営業担当者やカスタマーサポート担当者の意見は貴重です。彼らが日々聞いている顧客の声をマップに反映させましょう。
ステップ3|顧客の思考と感情の仮説立て
顧客行動を整理したら、次は各フェーズにおける顧客の思考と感情を仮説立てします。顧客がどのような考えを持ち、どのような感情を抱いているかを推測することで、より効果的なコミュニケーション設計が可能になります。
思考とは、顧客が考えていることです。「どのツールが自社に合っているだろう」「導入後のサポート体制はどうなっているのか」「上司を説得できる材料がほしい」といった内容を記述します。
感情とは、顧客が抱いている気持ちです。「複数の選択肢があって迷っている」「良い解決策が見つかりそうで期待している」「本当に効果が出るか不安だ」といった内容を記述します。
思考と感情を記述する際は、ポジティブな面とネガティブな面の両方を含めることが重要です。顧客は常にポジティブな状態で購買プロセスを進むわけではありません。「情報が多すぎて混乱している」「どれも似たような製品に見える」「本当に投資対効果があるのか心配」といったネガティブな感情も存在します。
これらのネガティブな感情こそ、マーケティング施策で解消すべきポイントです。例えば、「情報が多すぎて混乱している」という感情に対しては、製品比較表や選び方ガイドを提供することで解消できます。「本当に効果があるか心配」という感情に対しては、導入事例やROI試算ツールを提供することが有効です。
仮説と実態の違いを検証する重要性
思考と感情の仮説は、あくまで仮説です。実際の顧客の声を聞くことで検証し、精度を高めていく必要があります。顧客インタビューやアンケート、営業担当者からのフィードバックを通じて、継続的に仮説を検証・修正していきましょう。
弊社の支援経験では、当初立てた仮説と実際の顧客の思考・感情が大きく異なるケースが少なくありません。
ある企業では、顕在層へのアプローチを主軸としていたものの、さらなる事業成長のために潜在層への展開を検討していました。当初は既存サービスの延長線上でのアプローチを想定し、SNS運用を設計していましたが、それがターゲットに適切な手法なのか確信が持てない状態が続いていました。
そこでカスタマージャーニーマップを作成・分析した結果、意思決定の背景や重視されるポイントが仮説とは異なることが判明しました。当初は「積極的な選択」を重視していると想定していましたが、実際には「状況を踏まえた最適な選択」を求める傾向が強かったのです。
この違いを発見できたことで、ターゲットが求める情報や意思決定のタイミングを整理し直し、既存のコンセプトを再設計することができました。ブランド名やメッセージのトーンをターゲットが共感しやすい表現に再構築し、サービス提供のあり方や伝えるべき情報を整理した結果、新たなブランドの立ち上げに成功し、これまでリーチできていなかった潜在層の獲得につながりました。
このように、仮説を立てて終わりではなく、継続的に検証・修正することで、カスタマージャーニーマップの精度が高まり、より効果的な施策設計が可能になります。
ステップ4|課題と改善点の特定
顧客の行動、思考、感情を整理したら、次は課題と改善点を特定します。このステップでは、「現状の顧客体験(As is)」と「理想の顧客体験(To be)」のギャップを分析し、改善すべきポイントを見つけ出します。
課題を特定する際は、以下の観点から検討します。
離脱ポイントの発見 顧客がジャーニーの途中で離脱しているポイントはないか確認します。例えば、Webサイトには訪問しているが問い合わせに至らない、資料をダウンロードしたがその後のアクションがない、といった離脱が起きているポイントを特定します。
ペインポイントの把握 顧客がネガティブな感情を抱いているポイントを確認します。「情報が見つからない」「比較検討しにくい」「問い合わせへの対応が遅い」といったペインポイントは、改善の優先度が高い項目です。
タッチポイントの欠落 本来あるべきタッチポイントが欠落していないか確認します。例えば、比較検討段階の顧客に対するコンテンツが不足している、購入後のフォローアップが不十分である、といった欠落が見つかることがあります。
課題を特定したら、それぞれに対する改善施策のアイデアを洗い出します。この段階では、実現可能性やコストは一旦脇に置いて、考えられる施策を幅広くリストアップすることが重要です。その後、優先順位をつけて実行に移していきます。
弊社の支援経験では、課題の特定は一度きりで終わらせるのではなく、継続的に行うことが重要だと考えています。施策を実行し、その効果を測定し、新たな課題を発見するというサイクルを回すことで、カスタマージャーニー全体の最適化が進んでいきます。
ステップ5|マップの完成と共有
最後のステップは、これまでの検討結果を一枚のマップとしてまとめ、関係者に共有することです。
カスタマージャーニーマップの一般的な構成は、横軸にフェーズ、縦軸に各要素(行動、タッチポイント、思考、感情、課題、施策など)を配置する形式です。この構成により、フェーズごとの顧客体験を俯瞰できるとともに、縦に見ることで特定フェーズの詳細を把握できます。
マップを作成する際のポイントとして、以下の点があります。
視覚的に分かりやすくする テキストだけでなく、アイコンや色分けを活用して視覚的に分かりやすいマップにします。特に、ポジティブな感情とネガティブな感情を色分けしたり、優先度の高い課題をハイライトしたりすることで、重要なポイントが一目で分かるようになります。
詳細すぎないようにする 全ての情報を詰め込もうとすると、かえって分かりにくいマップになってしまいます。一枚のマップには重要な要素を厳選して記載し、詳細は別資料にまとめるという方法もあります。
関係者への共有と合意形成 完成したマップは、関係者に共有して合意を得ることが重要です。マーケティング部門、営業部門、カスタマーサポート部門など、顧客と接点を持つ全ての部門にマップを共有し、認識のズレがないか確認します。意見が出た場合は適宜修正を加え、全員が納得できるマップに仕上げます。
更新計画の策定 カスタマージャーニーマップは、作成した時点から古くなり始めます。市場環境の変化、競合の動き、顧客ニーズの変化などに合わせて、定期的に見直す必要があります。「四半期ごとに見直す」「大きなキャンペーンの前に確認する」といった更新のルールを決めておくことで、マップを「生きた資産」として活用し続けることができます。
BtoBにおけるカスタマージャーニーマップのポイント
BtoBビジネスにおけるカスタマージャーニーマップには、BtoCとは異なる特有のポイントがあります。ここでは、BtoBならではの特徴と、マーケティングと営業の連携について解説します。
BtoBならではの特徴と注意点
BtoBのカスタマージャーニーマップを作成する際には、以下の特徴を踏まえる必要があります。
意思決定者が複数存在する
BtoBの購買プロセスでは、購買意思決定に複数の人物が関与します。情報収集を行う担当者、プロジェクトを推進する推進者、最終的な決裁を行う決裁者など、それぞれ異なる役割と関心事を持っています。
例えば、担当者は「日々の業務が楽になるか」を重視し、推進者は「プロジェクトを成功させられるか」を重視し、決裁者は「投資対効果が見合うか」を重視する、というように、同じ製品に対しても見るポイントが異なります。
カスタマージャーニーマップでは、これらの複数の意思決定者それぞれの行動と心理を記述することが理想的です。少なくとも、主要な意思決定者のペルソナを複数設定し、それぞれがジャーニーのどの段階で関与するかを明確にしておく必要があります。
検討期間が長い
BtoBの購買では、認知から購入までの検討期間がBtoCと比較して長くなる傾向があります。特に高額な商材や導入に手間がかかる商材では、数ヶ月から1年以上の検討期間を要することも珍しくありません。
この長い検討期間の中で、顧客の関心を維持し続けることが重要です。カスタマージャーニーマップでは、各フェーズの期間の目安も記載し、長期にわたるナーチャリング施策を設計できるようにします。
企業視点と個人視点の両立
BtoBの顧客は、企業としての合理的な判断と、個人としての感情や動機の両面を持っています。企業としては「ROIが見合うか」「既存システムとの連携は可能か」といった合理的な観点で判断しますが、個人としては「自分の評価が上がるか」「面倒な作業が減るか」といった個人的な動機も存在します。
カスタマージャーニーマップでは、企業としての論理的な判断基準と、個人としての感情的な動機の両方を記述することで、より効果的なコミュニケーション設計が可能になります。
マーケティングと営業の連携
BtoBにおいて、カスタマージャーニーマップを活用して成果を出すためには、マーケティング部門と営業部門の連携が不可欠です。
リードの定義と品質基準の統一
マーケティング部門と営業部門の間でよく起きる問題の一つに、「リードの質」に関する認識のズレがあります。マーケティング部門は「多くのリードを獲得した」と考えていても、営業部門は「もらったリードの質が低い」と感じている、というケースは少なくありません。
この問題を解決するためには、カスタマージャーニーマップを両部門で共同作成し、「どの段階のリードを営業に引き渡すか」「どのような条件を満たしたリードを質の高いリードとするか」を明確に定義することが重要です。
例えば、「比較検討フェーズに入り、資料をダウンロードした上で、従業員100名以上の企業の担当者」をMQL(Marketing Qualified Lead)として定義し、営業に引き渡すというルールを決めておけば、両部門の認識が揃います。
部門間のコミュニケーション設計
カスタマージャーニーマップを作成する際には、マーケティング部門と営業部門の境界についても明確にしておくことが重要です。「どの段階までマーケティングが担当し、どの段階から営業が担当するか」「リードの引き渡し時にどのような情報を共有するか」といった点を決めておきます。
弊社の支援経験では、マーケティング部門が自部門でコントロールできる指標だけでなく、営業部門の「案件化数」や「受注率」も指標として持つことが効果的であると考えています。自部門ではコントロールできない指標を意識することで、「営業が求めているリードとはどのようなものか」を考える機会が生まれ、部門間の連携が強化されます。
KPIの連動による協力体制構築
最終的には、マーケティングと営業のKPIを連動させ、両部門が同じゴールに向かって協力する体制を構築することが理想です。マーケティング部門が「リード数」だけを追い、営業部門が「受注数」だけを追うという状態では、部門間の壁が生まれやすくなります。
カスタマージャーニーマップを起点として、KGI(最終目標)からKPI(中間指標)を逆算し、各部門の指標がどのように連動しているかを可視化することで、協力体制の構築につながります。
事例に学ぶカスタマージャーニーマップ活用のポイント
カスタマージャーニーマップを活用して成果を上げるためには、作成して終わりではなく、実際の施策設計と運用に落とし込むことが重要です。ここでは、弊社の支援経験から得られた実践的なポイントをお伝えします。
態度ごとに施策とKPIを切り分ける
カスタマージャーニーマップを作成した後、よくある失敗は「やりたい施策」を並べてしまうことです。しかし、成果につながるカスタマージャーニーマップの活用では、ターゲットの行動や心理状態に応じた「態度」ごとに施策と訴求を切り分けることが重要です。
ある企業では、顕在層へのアプローチを主軸にしていたものの、潜在層へのリーチが課題となっていました。既存サービスの延長線上でのアプローチを検討していましたが、本当にターゲットに価値提供ができるのか、戦略として適切であるかが不明瞭な状況でした。
そこで、STPをもとにターゲットの状態を可視化し、カスタマージャーニーマップを構築しました。このとき、単にフェーズを分けるだけでなく、「どういう態度があり、どういった刺激によって態度変容が生じ、購買するのか」という一連の流れを可視化しました。
具体的には、態度ごとに訴求軸や刺激、全体を通して打ち出すタグライン、施策内容を定義しました。さらに、態度ごとに正しいKPIを振り分けることで、「やりたい施策」から「訴求とKPIが明確化されたやるべき施策」へと転換することができました。
この結果、新ブランドとしてリリースした初月から収益化を実現し、これまでリーチできていなかった潜在層のターゲットを獲得することに成功しました。社内では当初、提供サービスの中の1商品として始まったプロジェクトが、次第に一事業のように認識されるまでに成長しています。
実際のターゲットにフィードバックを得る
カスタマージャーニーマップは机上で作成するだけでなく、実際のターゲットからフィードバックを得ることで精度が大きく向上します。
先述の企業では、カスタマージャーニーマップの作成後、ターゲットに当てはまる知人数名に実際にサービスを体験してもらいました。そこから得られたフィードバックをもとに、サービス内容の一部を改善しました。
特に重要だったのは、時間がかかる顧客の購買判断に必要なエビデンス(実績)を明確にできたことです。体験者のBefore & Afterがコミュニケーション施策やサイトの重要なコンテンツとなり、コンバージョンを後押しする要素になりました。
カスタマージャーニーマップを施策全体の設計図にする
カスタマージャーニーマップは、単にフレームワークとして作成するのではなく、マーケティング施策全体の設計図として活用することで価値が最大化されます。
ある企業では、デジタルマーケティングのノウハウがなく、何から始めればいいかわからない状態でした。リファラル依存による案件獲得が主軸となっており、新規顧客の獲得が頭打ちになっていたのです。
そこで、調査をもとに明らかになった訴求すべきターゲット像をもとに、新たなカスタマージャーニーを作成。それと同時に各チャネルの課題、課題に対する解決方法を整理し、全体戦略に落とし込みました。解決すべき課題が多い中、短期で成果を出すためにどうすれば良いかという視点で、各施策の優先順位を決定しました。
各施策の中で全チャネルの受け皿となっているサービスサイトが成果へのインパクトが大きいと判断し、サービスサイトの改修から着手。次にリードの母数を最大化するため、デジタル広告やコンテンツSEOに着手する方針としました。
施策実行に必要なスキルセットを棚卸しし、業務委託をアサインしてスピーディーに体制を構築。Jカーブの事業成長を実現するために、施策実行のスピードを常に意識しながら推進しました。
この結果、約1年で国内市場No.1のシェアを獲得することができました。カスタマージャーニーマップを起点とした戦略設計と、優先順位に基づいた施策実行が、短期間での成果につながった事例です。
カスタマージャーニーマップの活用と運用
カスタマージャーニーマップは、作成して終わりではありません。作成したマップを実際のマーケティング施策に活かし、継続的に改善していくことで、はじめて価値を発揮します。
マーケティング施策への活用方法
カスタマージャーニーマップを活用して、具体的なマーケティング施策を設計する方法を解説します。
タッチポイントごとのコンテンツ設計
カスタマージャーニーマップで整理したタッチポイントと顧客の思考・感情を基に、各タッチポイントで提供すべきコンテンツを設計します。
認知段階では、顧客の課題に気づきを与えるコンテンツが有効です。業界のトレンドや課題を解説するブログ記事、SNS投稿などが該当します。
情報収集段階では、課題解決の選択肢を理解できるコンテンツが求められます。ノウハウ記事、ホワイトペーパー、ウェビナーなどが効果的です。
比較検討段階では、自社製品の価値を伝えるコンテンツが重要になります。導入事例、製品比較表、ROI試算ツール、無料トライアルなどが該当します。
購入・導入段階では、購入を後押しするコンテンツと、導入をサポートするコンテンツが必要です。契約の流れ説明、導入ガイド、FAQ、サポート体制の説明などが該当します。
態度変容を促すコミュニケーション
顧客を次のフェーズに進めるためには、態度変容を促すコミュニケーションが必要です。カスタマージャーニーマップで整理した「顧客のネガティブな感情」や「課題」に対して、それを解消するコミュニケーションを設計します。
例えば、比較検討段階で「本当に自社に合っているか不安」という感情があれば、同業種の導入事例を提供したり、個別の相談会を案内したりすることで、不安を解消し購入段階への態度変容を促すことができます。
KPI設計との連動
カスタマージャーニーマップの各フェーズに対応するKPIを設定することで、施策の効果を測定できるようになります。
認知段階のKPIとしては、Webサイトへのセッション数、広告のインプレッション数、SNSのリーチ数などが考えられます。
情報収集段階のKPIとしては、コンテンツのPV数、資料ダウンロード数、ウェビナー参加者数などが考えられます。
比較検討段階のKPIとしては、問い合わせ数、商談数、見積依頼数などが考えられます。
購入段階のKPIとしては、受注数、契約金額、受注率などが考えられます。
これらのKPIをKPIツリーとして可視化し、各施策がどのKPIに貢献するかを明確にすることで、施策の優先順位づけや効果測定が容易になります。
定期的な更新と改善の進め方
カスタマージャーニーマップを「作って終わり」にしないためには、定期的な更新と改善の仕組みを構築することが重要です。
更新頻度とトリガーの設定
カスタマージャーニーマップの更新頻度は、業界や商材の特性によって異なりますが、少なくとも四半期に一度は見直すことをお勧めします。
また、定期的な見直しに加えて、以下のようなタイミングでも更新を検討します。
- 新製品・新サービスのリリース時
- 大規模なキャンペーンの実施前
- 競合の動きや市場環境に大きな変化があった時
- 施策の効果測定で想定と異なる結果が出た時
効果測定と振り返り
カスタマージャーニーマップに基づいて実施した施策の効果を測定し、仮説が正しかったかを検証します。設定したKPIの達成状況を確認し、達成できた場合は成功要因を、達成できなかった場合は課題を分析します。
効果測定の結果に基づいて、カスタマージャーニーマップの内容を修正します。「顧客の行動が想定と異なっていた」「このタッチポイントは思ったより効果がなかった」といった発見があれば、マップに反映させます。
運用資産としての育成
カスタマージャーニーマップは、継続的に更新・改善を重ねることで、組織にとって価値ある資産となります。最初から完璧なマップを作ろうとするのではなく、まずは60点の完成度でも良いので形にし、実際に活用しながら精度を高めていくアプローチが現実的です。
弊社の支援経験では、カスタマージャーニーマップを「運用資産」として捉え、定期的なメンテナンスを前提とした設計にすることが重要だと考えています。更新の担当者を決め、更新ルールを明文化し、関係者がいつでも最新のマップを参照できる状態を維持することで、カスタマージャーニーマップの価値を最大化できます。
まとめ
本記事では、カスタマージャーニーマップの基本的な概念から、5つのステップによる作成方法、BtoBならではのポイント、そして継続的な活用・運用方法までを解説しました。
カスタマージャーニーマップを作成・活用するうえで重要なポイントをまとめると、以下のようになります。
- 顧客視点を徹底する:企業の都合ではなく、顧客が実際にどう行動し、何を考え、何を感じるかを基に設計する
- 事実に基づいて作成する:想像や希望ではなく、顧客インタビューやデータ分析に基づいて精度を高める
- 複数部門で取り組む:マーケティング部門だけでなく、営業やカスタマーサポートなど複数部門を巻き込む
- 態度ごとに施策とKPIを切り分ける:やりたい施策ではなく、態度変容に基づいたやるべき施策を定義する
- 継続的に更新する:作成して終わりではなく、定期的に見直し、改善を重ねていく
カスタマージャーニーマップは、正しく作成・活用することで、顧客理解の深化、施策精度の向上、部門間連携の強化といった多くのメリットをもたらします。本記事の内容を参考に、自社のカスタマージャーニーマップ作成に取り組んでいただければ幸いです。
弊社KAAANでは、AIを実装したプロジェクト推進に特化し、カスタマージャーニーマップの作成からマーケティング施策の実行まで、一貫した支援を提供しています。カスタマージャーニーマップの作成や活用にお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
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