
BtoBマーケティングのフレームワークとは?種類・使い方・組み合わせ活用術を解説
BtoBマーケティングにおいて、フレームワークは戦略立案の羅針盤として多くの企業で活用されています。体系化された思考の枠組みを活用することで、市場環境の把握から施策設計まで、一貫性のあるマーケティング活動を展開できるようになります。
一方で、以下のような声も増えています。
- フレームワークの種類が多すぎて、どれを使えばよいか分からない
- フレームワークを埋めることが目的化してしまい、実際の施策に活かせていない
- 自社の状況に合ったフレームワークの選び方が分からない
そこで本記事では、BtoBマーケティングで活用できる代表的なフレームワークの種類と使い方を解説します。市場分析から戦略立案、施策設計まで、フェーズごとに適切なフレームワークを選び、組み合わせて活用するためのポイントをお伝えします。
目次
BtoBマーケティングにおけるフレームワークの役割
フレームワークを効果的に活用するためには、まずその役割と特性を正しく理解することが重要です。フレームワークは「万能な答え」を提供するものではなく、「考えるための型」として活用することで初めて価値を発揮します。
フレームワークとは何か
マーケティングにおけるフレームワークとは、複雑な情報や課題を整理し、意思決定のプロセスを効率化するための思考の枠組みを指します。特定の視点や要素に沿って情報を整理することで、漏れや偏りのない分析が可能になります。
BtoBマーケティングの文脈では、市場環境の分析、ターゲット顧客の設定、自社のポジショニング、施策の設計など、様々な場面でフレームワークが活用されます。例えば、3C分析を用いれば「顧客」「競合」「自社」という3つの視点から体系的に市場を把握できますし、STP分析を用いれば「セグメンテーション」「ターゲティング」「ポジショニング」という流れでターゲット戦略を策定できます。
重要なのは、フレームワークはあくまで「思考を支援するツール」であり、「正解を導き出す公式」ではないという点です。同じフレームワークを使っても、情報の質や分析の深さによって得られる結論は大きく異なります。フレームワークを活用する際は、「このフレームワークを使うことで何を明らかにしたいのか」という目的を明確にした上で取り組むことが求められます。
BtoBマーケティングでフレームワークを活用するメリット
フレームワークを活用することで、以下のようなメリットが得られます。
情報の整理と構造化
BtoBマーケティングでは、市場環境、顧客ニーズ、競合動向、自社リソースなど、考慮すべき要素が多岐にわたります。フレームワークを活用することで、これらの情報を特定の視点に沿って整理でき、重要な要素の見落としを防げます。
チーム内の共通言語の確立
フレームワークを使った分析結果は、関係者間で認識を共有するための共通言語として機能します。「STP分析の結果、ターゲットは中堅製造業の経営企画部門」「3C分析で把握した競合の強みはこの点」といった形で、議論の土台を揃えることができます。これはマーケティング部門と営業部門の連携においても重要な役割を果たします。
意思決定の効率化
複雑な状況下で判断を下す際、フレームワークは判断基準を明確にする助けとなります。SWOT分析で整理した「機会」と「強み」を掛け合わせることで優先的に取り組むべき施策が見えてきますし、4P分析で各要素を検討することで施策の抜け漏れを防げます。
再現性のある戦略策定
フレームワークを活用した戦略策定プロセスは、属人的な判断に依存することなく、組織として再現可能な形で実行できます。担当者が変わっても、同じフレームワークを用いて分析を行うことで、一定の品質を保った戦略策定が可能になります。
フレームワーク活用時に陥りやすい落とし穴
フレームワークの活用には多くのメリットがある一方で、注意すべき点もあります。
埋めることが目的化する
フレームワークの各項目を埋めることに注力するあまり、本来の目的である「戦略立案」や「意思決定」がおろそかになるケースがあります。3C分析のフォーマットを埋めたものの、そこから導き出される示唆や次のアクションが不明確なまま終わってしまうという状況は避けるべきです。フレームワークは「埋める」のではなく「活用する」という意識が重要です。
理想論で埋めてしまう
顧客ニーズや市場環境について、実際のデータや一次情報ではなく、自社の希望や推測で埋めてしまうケースも見受けられます。「顧客はこう思っているはず」「市場はこう動くだろう」といった仮説は、顧客へのヒアリングや市場調査によって検証する必要があります。
一度作ったら更新しない
市場環境や顧客ニーズは常に変化しています。一度作成したフレームワークを長期間そのまま使い続けると、現実との乖離が生じます。定期的な見直しと更新を行う運用体制を整えることが求められます。
BtoB特有の複雑性を考慮しない
BtoBマーケティングでは、購買意思決定に複数のステークホルダーが関与し、検討期間が長期化する傾向があります。BtoC向けに開発されたフレームワークをそのまま適用すると、この複雑性を捉えきれない可能性があります。BtoBの購買プロセスの特性を踏まえた活用が必要です。
市場分析・現状把握に活用するフレームワーク
戦略立案の第一歩は、自社を取り巻く市場環境を正しく把握することです。市場分析のフェーズでは、顧客、競合、自社の関係性を理解し、マクロ環境のトレンドを把握するためのフレームワークが活用されます。
3C分析で市場環境を把握する
3C分析は、「Customer(顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」の3つの視点から市場環境を分析するフレームワークです。BtoBマーケティングの戦略立案において、最も基本的かつ重要なフレームワークの一つと言えます。
Customer(顧客)の分析
ターゲットとなる企業のニーズ、課題、購買プロセス、意思決定者の特性などを分析します。BtoBでは「企業」と「担当者個人」の両方の視点が必要です。企業としての経営課題や業界特有のニーズに加え、担当者が抱える業務上の悩みや、社内での立場なども考慮します。
また、BtoBでは購買に複数の関係者が関与することが一般的です。推進者、決裁者、利用者など、それぞれの役割や関心事を把握することで、より精度の高い顧客理解が可能になります。
Competitor(競合)の分析
直接競合となる企業の製品・サービス、価格、強み・弱み、マーケティング戦略などを分析します。競合の定義は慎重に行う必要があります。同じ製品カテゴリの企業だけでなく、顧客の課題解決という観点で代替となりうる選択肢も含めて検討することが重要です。
Company(自社)の分析
自社の強み、弱み、保有するリソース、技術力、ブランド認知度などを客観的に評価します。自社の強みについては、顧客から見た価値という視点で整理することがポイントです。社内で当たり前と思っていることが、顧客にとっては大きな価値となっているケースもあります。
3C分析を行う際は、3つの要素を個別に分析するだけでなく、それぞれの関係性を考察することが重要です。「顧客のニーズに対して、競合はどのようにアプローチしているか」「自社の強みは、顧客のどのようなニーズに応えられるか」といった問いを立てることで、戦略の方向性が見えてきます。
実際、ある業務支援系クラウドサービス企業では、リファラル依存による案件獲得が主軸となっており、新規顧客の獲得が頭打ちになっていました。デジタルマーケティングの活用が不可欠だったものの、組織内には専門知識を持つ人材がおらず、何から始めるべきか指針が不足していた状況でした。そこで外部パートナーと協力し、まず3C分析を通じて「誰に、何を、どのように届けるべきか」という基本戦略を整理。ターゲットとなる顧客を特定し、提供価値を明確にした上で、デジタルマーケティングを推進するための戦略基盤を構築しました。この取り組みにより、約1年で国内市場No.1のシェアを獲得することに成功しています。
この事例からわかるのは、3C分析は単なる情報整理のツールではなく、「自社が勝てる市場」を見極め、そこに集中投資するための意思決定ツールとして機能するということです。
PEST分析でマクロ環境を理解する
PEST分析は、「Political(政治)」「Economic(経済)」「Social(社会)」「Technological(技術)」の4つの観点から、マクロ環境のトレンドを分析するフレームワークです。中長期的な戦略立案において、外部環境の変化を予測するために活用されます。
Political(政治的要因)
法規制の変更、政府の政策、業界規制などが自社のビジネスに与える影響を分析します。例えば、個人情報保護に関する法規制の強化は、BtoBマーケティングにおけるデータ活用のあり方に直接影響を与えます。
Economic(経済的要因)
景気動向、為替レート、金利、業界の成長率などの経済的要因を分析します。BtoBでは、顧客企業の業績や投資意欲に影響を与える経済環境の変化を把握することが重要です。
Social(社会的要因)
人口動態の変化、価値観の変化、働き方の変化などの社会的トレンドを分析します。リモートワークの普及やデジタル化の進展は、BtoBの購買行動にも大きな影響を与えています。
Technological(技術的要因)
技術革新、デジタル化の進展、新技術の普及などが自社や業界に与える影響を分析します。生成AIの発展は、マーケティング活動のあり方を大きく変えつつあります。
PEST分析は、自社を取り巻く大きな潮流を把握するためのフレームワークです。直接的な施策につながるものではありませんが、戦略の前提となる環境認識を整えるために重要な役割を果たします。
5F分析で業界構造を分析する
5F分析(ファイブフォース分析)は、業界の競争環境を5つの力から分析するフレームワークです。マイケル・ポーターが提唱したもので、業界の収益性や自社のポジションを評価するために活用されます。
既存競合との競争
業界内の競合企業との競争の激しさを評価します。競合の数、市場の成長率、差別化の程度などが影響要因となります。
新規参入の脅威
新たな競合が参入してくる可能性とその影響を評価します。参入障壁の高さ、必要な投資規模、規制の有無などを分析します。
代替品の脅威
顧客のニーズを満たす代替品や代替サービスの存在を評価します。BtoBでは、「内製」という選択肢も代替品として考慮する必要があります。
買い手の交渉力
顧客の価格交渉力を評価します。顧客の集中度、スイッチングコストの高さ、購買量などが影響要因となります。
売り手の交渉力
サプライヤーの価格交渉力を評価します。調達先の選択肢の多さ、原材料の希少性などが影響要因となります。
5F分析は、業界全体の収益構造を理解し、自社がどのポジションで戦うべきかを検討するための基礎情報を提供します。特に新規事業の検討や、事業戦略の見直しを行う際に有用です。
戦略立案に活用するフレームワーク
市場環境を把握した後は、具体的な戦略を立案するフェーズに移ります。このフェーズでは、ターゲットの設定、自社のポジショニング、提供価値の明確化を行うためのフレームワークが活用されます。
STP分析でターゲットとポジショニングを決める
STP分析は、「Segmentation(市場細分化)」「Targeting(ターゲット選定)」「Positioning(ポジショニング)」の3つのステップで戦略を策定するフレームワークです。BtoBマーケティングにおいて、最も重要なフレームワークの一つと言えます。
Segmentation(市場細分化)
市場を特定の基準で細分化し、顧客グループを定義します。BtoBでは、業界、企業規模、地域、課題の種類などが一般的なセグメンテーション基準となります。
例えば、「製造業」「中堅企業(従業員100〜500名)」「関東圏」「生産性向上に課題を持つ企業」といった形で、複数の基準を組み合わせてセグメントを定義します。
重要なのは、各セグメントが「測定可能」「アクセス可能」「十分な規模がある」「差別化可能」であることです。細かく分けすぎると実務的に対応が難しくなり、大きすぎると差別化されたアプローチができなくなります。
Targeting(ターゲット選定)
定義したセグメントの中から、自社が注力すべきターゲットを選定します。市場の魅力度(市場規模、成長性、収益性など)と、自社の競争優位性(強みを活かせるか、リソースは十分か)の両面から評価します。
BtoBでは、「全方位」で市場を狙うのではなく、特定のセグメントに集中することで成果を出しやすくなります。ターゲットを絞り込むことは、「やらないことを決める」ことでもあり、リソースの選択と集中を可能にします。
Positioning(ポジショニング)
選定したターゲットに対して、競合と差別化された自社の立ち位置を明確にします。ポジショニングは、顧客の視点から見た自社の価値提案を定義するものです。
ポジショニングを検討する際は、「誰に」「何を」「どのように」提供するかを明確にします。競合との違いを強調するだけでなく、その違いがターゲット顧客にとって価値があるかどうかを検証することが重要です。
STP分析は、一度行えば終わりというものではありません。市場環境の変化や自社の成長に応じて、定期的に見直しを行うことが求められます。
事例から学ぶSTP分析の実践ポイント
ある特定職種に特化した人材サービス企業では、CPA高騰とSEO競争激化により、初回コンタクトの獲得数が伸び悩んでいました。対象ユーザー層が広く設定されていたため、どの層が成果に直結しやすいかの可視化が不十分となり、ターゲティング精度の最適化が進まない状況が続いていたのです。
そこで、現場のキャリアアドバイザーに対する複数回のヒアリングを実施し、ペルソナおよびカスタマージャーニーを再作成しました。その結果、一般的な訴求軸に共感する層よりも、特定の状況において「主体的に動きづらいため、効率的にサポートを受けたい」といったニーズを持つユーザーが一定数存在することが明らかになりました。
この発見をもとに、ターゲットのニーズに沿った訴求内容に変更した結果、指名検索からのCVRが倍以上に向上。スカウトメールのCVRも半数以上の媒体で倍増し、マーケティング効率が大幅に改善しました。
この事例から得られる教訓は、STP分析は「机上の分析」だけでは不十分であり、現場の一次情報を取り入れてこそ精度の高いターゲティングが可能になるということです。営業部門やカスタマーサクセス部門が持つ顧客情報を、マーケティング戦略に反映させる仕組みを構築することが重要です。
SWOT分析で内外環境を評価する
SWOT分析は、「Strengths(強み)」「Weaknesses(弱み)」「Opportunities(機会)」「Threats(脅威)」の4つの要素を整理するフレームワークです。内部環境(強み・弱み)と外部環境(機会・脅威)を2×2のマトリクスで可視化します。
Strengths(強み)
自社が持つ競争優位性や、顧客に評価されているポイントを整理します。技術力、ブランド認知度、顧客基盤、人材、ノウハウなど、競合と比較した際のアドバンテージを明確にします。
Weaknesses(弱み)
自社が抱える課題や、競合に劣るポイントを整理します。リソースの不足、認知度の低さ、製品・サービスの限界など、正直に評価することが重要です。
Opportunities(機会)
外部環境における成長機会を整理します。市場の成長、顧客ニーズの変化、技術革新、規制緩和など、自社にとってプラスに働く外部要因を特定します。
Threats(脅威)
外部環境におけるリスク要因を整理します。競合の台頭、市場の縮小、規制強化、技術の陳腐化など、自社にとってマイナスに働く外部要因を特定します。
SWOT分析をより実践的に活用するために、クロスSWOT分析という手法があります。これは、4つの要素を掛け合わせることで、具体的な戦略オプションを導き出すものです。
- 強み×機会(積極戦略): 自社の強みを活かして機会を捉える
- 強み×脅威(差別化戦略): 自社の強みで脅威に対抗する
- 弱み×機会(改善戦略): 弱みを克服して機会を活かす
- 弱み×脅威(防衛戦略): 弱みと脅威の影響を最小化する
クロスSWOT分析を行うことで、単なる現状把握から一歩進んで、具体的な戦略の方向性を検討できるようになります。
バリュープロポジションキャンバスで提供価値を明確にする
バリュープロポジションキャンバスは、顧客のニーズと自社が提供する価値の対応関係を明確にするフレームワークです。顧客理解を深め、差別化された価値提案を設計するために活用されます。
顧客プロファイル
ターゲット顧客について、以下の3つの観点から整理します。
- ジョブ(顧客が達成したいこと): 顧客が業務上達成しようとしていること、解決したい課題
- ペイン(課題・不満): ジョブを達成する上での障害、困っていること、避けたいこと
- ゲイン(望んでいること): ジョブを達成した先に得たい成果、期待していること
バリューマップ
自社が提供する価値について、以下の3つの観点から整理します。
- 製品・サービス: 顧客に提供する製品やサービスの内容
- ペインリリーバー: 顧客のペインを解消する要素
- ゲインクリエイター: 顧客のゲインを実現する要素
バリュープロポジションキャンバスのポイントは、顧客プロファイルとバリューマップの「フィット」を確認することです。自社が提供しようとしている価値が、顧客のジョブ、ペイン、ゲインと合致しているかを検証します。
BtoBでは、複数の関係者それぞれについて顧客プロファイルを作成することで、より精緻な価値提案が可能になります。推進者、決裁者、利用者といった役割ごとに、ジョブ、ペイン、ゲインが異なる場合があるためです。
事例から学ぶバリュープロポジション設計のポイント
ある大手キャリア支援サービスでは、顕在層へのアプローチを主軸にしており、既存会員は顕在層の割合が高い状態が続いていました。さらなる事業成長を目指すにあたり、潜在層へのアプローチが不可欠となりましたが、既存の延長線上でのアプローチでは、本当にリーチできているのか、価値提供ができるのかが不明瞭な状況でした。
そこで、カスタマージャーニーマップを作成・分析した結果、潜在層ターゲットの意思決定の背景や重視されるポイントが仮説とは異なり、「積極的な選択」よりも「状況を踏まえた最適な選択」を求める傾向が強いことが判明しました。
この発見を踏まえ、ターゲットが求める情報や意思決定のタイミングを整理し、既存のコンセプトを再設計。新たなブランドとして立ち上げることで、潜在層ターゲットの獲得に成功しました。ブランド名やメッセージのトーンを調整し、ターゲットが共感しやすい表現に再構築したことで、従来とは異なる肯定的な反応が得られるようになったのです。
この事例から得られる教訓は、バリュープロポジションの設計においては、「自社が提供したい価値」ではなく、「顧客が求める価値」を起点に考えることが重要だということです。また、顕在層と潜在層では求める価値が異なるため、ターゲットごとに価値提案を設計し直す必要があることも示唆しています。
施策設計・実行に活用するフレームワーク
戦略が定まったら、具体的な施策を設計し実行するフェーズに移ります。このフェーズでは、マーケティングミックスの設計、顧客接点の可視化、目標設定のためのフレームワークが活用されます。
4P分析でマーケティングミックスを設計する
4P分析は、「Product(製品)」「Price(価格)」「Place(流通)」「Promotion(販促)」の4つの要素でマーケティング戦略を設計するフレームワークです。マーケティングミックスとも呼ばれ、施策を検討する際の基本的な枠組みとして活用されます。
Product(製品)
顧客に提供する製品・サービスの内容を定義します。機能、品質、ブランド、パッケージング、サポートなど、顧客に提供する価値の全体像を設計します。
BtoBでは、製品そのものだけでなく、導入支援、トレーニング、カスタマーサクセスといった付随するサービスも含めて検討することが重要です。
Price(価格)
価格戦略を設計します。単価の設定だけでなく、価格体系(サブスクリプション、従量課金、ライセンス等)、ディスカウント方針、支払い条件なども含めて検討します。
BtoBでは、価格の透明性、見積もりの柔軟性、ROIの説明のしやすさなども重要な要素となります。
Place(流通)
製品・サービスを顧客に届けるチャネルを設計します。直販、代理店販売、オンライン販売など、複数のチャネルを組み合わせることもあります。
BtoBでは、営業チャネルとマーケティングチャネルの連携が重要です。Webサイトやオウンドメディアで獲得したリードを、営業チームにどのように引き継ぐかを設計する必要があります。
Promotion(販促)
製品・サービスの認知を高め、購買を促進するためのコミュニケーション活動を設計します。広告、コンテンツマーケティング、展示会、セミナーなど、様々な手法を組み合わせます。
BtoBでは、認知段階から比較検討段階、購買決定段階まで、顧客の購買プロセスに応じた情報提供が求められます。
4P分析を行う際は、4つの要素の一貫性を意識することが重要です。高品質・高価格の製品を安売りの販促で訴求しても、メッセージに矛盾が生じます。全体として整合性のとれたマーケティングミックスを設計することがポイントです。
事例から学ぶ4P活用のポイント
ある業務支援系SaaS企業では、長年にわたり主力プロダクトを中心に事業を展開し、業界内で一定の認知を確立していました。しかし、既存サービスにとどまらず、DX推進全般を支援する総合的な立ち位置を築きたいと考え、コーポレートサイトの刷新と新サービスのリリースを同時に進めることになりました。
このプロジェクトでは、まず4Pの観点から全体を見直しました。特に注力したのがPlace(流通)とPromotion(販促)の連携です。具体的には、これまで一貫性がなかったサービス訴求の軸を統一し、ユーザーのインサイトと会社としてありたい姿を加味しながら、既存サービスと新商材をどのような見せ方に落とし込むか方針を策定。会社としての世界観、そのためにどのようなサービスを提供しているのかをユーザーに伝わるように全体シナリオを描き、サービスサイトの設計を行いました。
その結果、サイトリニューアル前後でCV数が約1.5倍に増加。Webサイトへのセッション数には大きな変化がなかったことから、サイト内のCTA改善や構成へのテコ入れだけでCVRを劇的に改善できたことがわかります。
この事例から得られる教訓は、4P分析は個別の要素を最適化するだけでなく、要素間の整合性と一貫したメッセージの設計が成果を左右するということです。特にBtoBでは、複数のサービスを提供している場合、それらをどう見せるかという「見せ方の設計」が重要になります。
カスタマージャーニーマップで顧客接点を可視化する
カスタマージャーニーマップは、顧客が製品・サービスを認知してから購入に至るまでの過程を可視化するフレームワークです。各段階での顧客の行動、思考、感情を整理し、最適なコミュニケーションを設計するために活用されます。
横軸:購買プロセスの段階
一般的には、「認知」「興味・関心」「情報収集」「比較検討」「購入決定」「導入・活用」といった段階に分けます。自社のビジネスモデルや顧客の購買行動に応じて、適切な段階設定を行います。
縦軸:分析の観点
各段階について、以下のような観点から整理します。
- 顧客の行動: その段階で顧客がとる具体的な行動
- 顧客の思考・感情: その段階で顧客が考えていること、感じていること
- 接点(タッチポイント): 顧客と接触する場面やチャネル
- 課題・障壁: 顧客が次の段階に進む上での障害
- 対応施策: 課題を解決するための施策
BtoBのカスタマージャーニーマップを作成する際は、以下のポイントを意識します。
複数の関係者を考慮する
BtoBでは、購買に複数のステークホルダーが関与します。推進者、決裁者、利用者など、役割ごとにジャーニーが異なる場合があるため、それぞれの視点を踏まえた設計が必要です。
長期の検討期間を考慮する
BtoBの購買プロセスは、数週間から数ヶ月、場合によっては1年以上かかることもあります。この長期の検討期間を通じて、顧客との関係性を維持・強化するための施策を設計します。
ペルソナとの連携
カスタマージャーニーマップは、ペルソナと組み合わせて活用することで効果を発揮します。「誰が」「どのようなプロセスで」購買に至るのかを具体的にイメージすることで、より精度の高いコミュニケーション設計が可能になります。
事例から学ぶカスタマージャーニーの活用ポイント
先述の業務支援系クラウドサービス企業では、3C分析で市場環境を把握した後、カスタマージャーニーマップを再作成し、各チャネルの課題と解決方法を整理して全体戦略に落とし込みました。
ポイントとなったのは、「成果ファースト」の視点で施策の優先順位を決定したことです。解決すべき課題が多い中、短期で成果を出すためにどうすれば良いかという観点から分析した結果、全チャネルの受け皿となっているサービスサイトが成果へのインパクトが大きく、かつ他の施策を行ってもサービスサイトでリードの取りこぼしが起きると成果につながらない可能性があることが判明。そこで、サービスサイトの改修から着手し、次にリードの母数を最大化するためデジタル広告やコンテンツSEOに着手する方針を策定しました。
この事例から学べるのは、カスタマージャーニーマップは「顧客接点の可視化」だけでなく、「施策の優先順位付け」にも活用できるということです。限られたリソースの中で最大の成果を出すためには、どのタッチポイントに最初に投資すべきかを見極めることが重要です。
KPIツリーで目標と指標を構造化する
KPIツリーは、最終目標(KGI)を達成するために必要な要素(KPI)を樹形図で可視化するフレームワークです。目標達成に必要な要素を分解し、具体的な施策につなげるために活用されます。
KGI(Key Goal Indicator)の設定
最終目標となる指標を設定します。BtoBマーケティングでは、「売上」「受注数」「商談数」などがKGIとして設定されることが一般的です。
KPI(Key Performance Indicator)への分解
KGIを構成する要素を、四則演算で分解していきます。例えば、「売上」を分解すると、「売上 = 受注数 × 平均単価」となります。さらに「受注数」を分解すると、「受注数 = 商談数 × 受注率」となります。このように、最終目標から逆算して要素を分解していきます。
具体的な施策との紐付け
各KPIに対して、改善のための施策を紐付けます。「商談数」を増やすためには「MQL(マーケティング認定リード)の数を増やす」「MQLから商談への転換率を上げる」といったアプローチが考えられ、それぞれに具体的な施策を設計します。
KPIツリーを活用する際のポイントは以下の通りです。
ボトルネックの特定
KPIツリーを作成することで、目標達成を妨げているボトルネックを特定しやすくなります。どの指標が目標に対して乖離しているかを確認することで、注力すべきポイントが明確になります。
マーケティングと営業の連携
BtoBでは、マーケティング部門と営業部門の連携が成果創出の鍵を握ります。KPIツリーを共有することで、両部門が共通の目標に向かって連携できるようになります。例えば、マーケティング部門が「リード数」だけでなく「商談化率」も指標として持つことで、営業部門との協力関係が生まれやすくなります。
SMARTの原則
KPIの設定においては、以下の5つの要素を満たすことが推奨されます。
- Specific(明確): 何を測定するかが明確
- Measurable(測定可能): 数値で測定できる
- Achievable(達成可能): 現実的に達成できる
- Relevant(関連性): 最終目標との関連性がある
- Time-bound(期限): 達成期限が設定されている
フレームワークの組み合わせ活用術
フレームワークは単独で活用するだけでなく、複数を組み合わせることで、より実践的な戦略策定が可能になります。ここでは、BtoBマーケティングで効果的なフレームワークの組み合わせパターンと活用のコツを解説します。
フェーズ別の効果的な組み合わせパターン
フレームワークは、マーケティング活動のフェーズに応じて使い分けることが重要です。以下に、代表的な組み合わせパターンを紹介します。
パターン1:市場分析から戦略立案まで(3C → STP → バリュープロポジション)
まず3C分析で市場環境を把握し、顧客ニーズ、競合状況、自社の立ち位置を明確にします。次にSTP分析でターゲットとポジショニングを決定します。最後にバリュープロポジションキャンバスで、ターゲット顧客に対する提供価値を具体化します。
この組み合わせは、新規事業の立ち上げや、既存事業の戦略見直しを行う際に有効です。市場理解から価値提案まで、一貫した流れで検討を進めることができます。
パターン2:戦略から施策設計まで(STP → ペルソナ → カスタマージャーニー → 4P)
STP分析でターゲットを設定した後、ペルソナを作成して具体的な顧客像を描きます。次にカスタマージャーニーマップで顧客の購買プロセスを可視化し、各段階での課題と対応施策を整理します。最後に4P分析でマーケティングミックスを設計します。
この組み合わせは、具体的な施策設計を行う際に有効です。抽象的な戦略を、実行可能な施策に落とし込むことができます。
パターン3:評価と改善(KPIツリー → SWOT → アクションプラン)
KPIツリーで目標と現状の乖離を把握し、ボトルネックとなっている要素を特定します。次にSWOT分析で、ボトルネック解消に活用できる強みや機会を整理します。最後に、具体的なアクションプランに落とし込みます。
この組み合わせは、PDCAサイクルの中で改善施策を検討する際に有効です。データに基づいて課題を特定し、戦略的なアプローチで改善を図ることができます。
BtoB特有の意思決定プロセスを踏まえた活用のコツ
BtoBマーケティングでフレームワークを活用する際は、BtoC とは異なる特性を考慮することが重要です。
複数の意思決定者への対応
BtoBでは、購買に複数のステークホルダーが関与します。推進者、決裁者、利用者、影響者など、それぞれの役割や関心事は異なります。
ペルソナやカスタマージャーニーマップを作成する際は、主要な関係者ごとに検討を行うことが推奨されます。例えば、「IT部門のマネージャー(推進者)」「経営企画部門の部長(決裁者)」「現場の担当者(利用者)」といった形で、複数のペルソナを設定します。
長期の検討期間への対応
BtoBの購買プロセスは長期化する傾向があります。この間、顧客との接点を維持し、関係性を構築していく必要があります。
カスタマージャーニーマップでは、長期の検討期間を通じた継続的なコミュニケーション設計が求められます。「認知」から「購入決定」までの間に、定期的な情報提供やナーチャリング施策を組み込むことが重要です。
組織的な購買への対応
BtoBでは、個人ではなく組織として購買の意思決定が行われます。論理的な判断、ROIの検証、社内稟議といったプロセスを経て購買に至ります。
バリュープロポジションを設計する際は、感情的な訴求だけでなく、論理的な根拠や定量的な効果を提示できるようにすることが重要です。導入事例やROI試算など、社内での検討・稟議に活用できる情報を提供することで、購買プロセスを後押しできます。
継続的な見直しと改善のポイント
フレームワークを活用した分析や戦略策定は、一度行えば終わりというものではありません。市場環境や顧客ニーズは常に変化しているため、定期的な見直しと更新が必要です。
定期的なレビューサイクルの設定
四半期に一度、あるいは半期に一度など、定期的にフレームワークの見直しを行うサイクルを設定します。3C分析やSWOT分析は、市場環境の変化を捉えるために継続的に更新することが求められます。
データによる検証
フレームワークで導き出した仮説は、実際のデータで検証することが重要です。「顧客はこのようなニーズを持っている」という仮説は、顧客へのヒアリングやアンケート、行動データの分析によって検証します。
施策結果のフィードバック
実行した施策の結果を、フレームワークにフィードバックします。「想定していた顧客ニーズと実際の反応が異なった」「競合の動きが予想と違った」といった発見は、次の戦略策定に活かすべき貴重な学びとなります。
営業部門との情報共有
BtoBマーケティングでは、営業部門が持つ顧客情報が戦略策定において非常に重要です。営業部門との定期的な情報共有の場を設け、顧客の声や市場の変化をフレームワークに反映させる仕組みを構築することが推奨されます。
フレームワーク活用を成功させるための実践ポイント
これまで解説してきたフレームワークを実際に活用し、成果につなげるためのポイントを整理します。
「埋める」から「活用する」への意識転換
フレームワークを効果的に活用するためには、「フォーマットを埋めること」を目的化しないことが重要です。例えば、3C分析であれば「競合の情報を網羅的に収集する」ことよりも、「その情報から自社がどの領域で戦うべきかの示唆を得る」ことに注力すべきです。
実践においては、以下のような問いを立てることが有効です。
- 3C分析: 顧客ニーズに対して、競合が満たせていない領域はどこか?その領域で自社は強みを発揮できるか?
- STP分析: なぜこのセグメントをターゲットに選んだのか?他のセグメントではない理由は何か?
- SWOT分析: この「機会」に対して、自社の「強み」をどう活かせるか?具体的なアクションは何か?
一次情報の重要性
フレームワークに投入する情報の質が、アウトプットの質を決定します。特にBtoBマーケティングでは、顧客の一次情報が戦略の精度を大きく左右します。
先述の人材サービス企業の事例では、現場のキャリアアドバイザーへの複数回のヒアリングを通じて、定量データだけでは見えなかった顧客インサイトを発見しました。自社のユーザー行動に関する定量データが、他社が一般に提示している数値傾向とは異なることが確認され、その要因や背景についてもヒアリングを通じて明確化されたのです。
このように、フレームワークを活用する前に、顧客との接点を持つ部門から一次情報を収集する仕組みを構築することが、戦略の精度を高めるための重要なステップとなります。
フレームワーク間の連携を意識する
個々のフレームワークを単独で使うのではなく、フレームワーク間の連携を意識することで、より実践的な戦略策定が可能になります。
例えば、以下のような連携パターンが考えられます。
- 3C分析 → STP分析: 3Cで把握した顧客ニーズと競合状況をもとに、STPでターゲットとポジショニングを決定
- STP分析 → バリュープロポジション: STPで定めたターゲットに対して、具体的な提供価値を設計
- バリュープロポジション → 4P分析: 提供価値を実現するためのマーケティングミックスを設計
- カスタマージャーニー → KPIツリー: ジャーニーの各段階における目標と指標を構造化
このように、フレームワークを一連の流れとして活用することで、戦略から施策まで一貫性のあるマーケティング活動を設計できます。
部門横断での活用を推進する
BtoBマーケティングの成功には、マーケティング部門だけでなく、営業部門、カスタマーサクセス部門、製品開発部門との連携が欠かせません。フレームワークは、こうした部門間の共通言語として機能します。
例えば、失注・受注分析を部門横断で行うことで、マーケティング施策の改善点が明確になります。ある企業では、営業部門と共同で顧客の購買行動を分析した結果、従来想定していたターゲット像と実際に成約に至る顧客像にギャップがあることが判明し、マーケティング戦略を大幅に見直すきっかけとなりました。
フレームワークを用いた分析結果を社内で共有し、議論を通じて戦略を磨いていくことで、組織全体として一貫性のあるマーケティング活動を展開できるようになります。
まとめ
BtoBマーケティングにおけるフレームワークは、複雑な市場環境を整理し、一貫性のある戦略を策定するための有効なツールです。本記事で解説した主要なフレームワークを整理すると、以下のようになります。
市場分析・現状把握
- 3C分析:顧客・競合・自社の3視点から市場環境を把握
- PEST分析:マクロ環境の変化を予測
- 5F分析:業界の競争構造を分析
戦略立案
- STP分析:ターゲットとポジショニングを決定
- SWOT分析:内外環境を評価し戦略オプションを導出
- バリュープロポジションキャンバス:顧客への提供価値を明確化
施策設計・実行
- 4P分析:マーケティングミックスを設計
- カスタマージャーニーマップ:顧客接点を可視化
- KPIツリー:目標と指標を構造化
フレームワークを活用する際は、「埋めることが目的化しない」「理想論ではなく事実に基づく」「定期的に見直す」「BtoB特有の複雑性を考慮する」といったポイントを意識することが重要です。
また、フレームワークは単独で活用するだけでなく、複数を組み合わせることで、より実践的な戦略策定が可能になります。自社の状況や課題に応じて、適切なフレームワークを選び、組み合わせて活用することで、成果につながるマーケティング活動を展開できるようになります。
フレームワークはあくまで「思考を支援するツール」であり、最終的に成果を出すのは、それを活用する人と組織です。フレームワークを通じて得られた示唆を、具体的な施策に落とし込み、実行し、改善を重ねていくことが、BtoBマーケティングの成功への道筋となります。
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