
AIでマーケティング施策を考える前に、まず購買行動プロセスを可視化する理由
AIを活用して「今やっている施策の成果を倍にしたい」と考えるマーケターは多いと思います。私たちも、クライアントのマーケティング支援においてAIを積極的に活用していますが、その過程で一つの気づきがありました。
特定の施策を専門的にやっている場合、AIを使っても「倍の成果」を出すのは意外と難しいということです。Web広告を専門にやっている人がAIに「広告の成果を倍にしたい」と相談しても、出てくるアイデアは既に知っているものの延長線上になりがちです。
また、専門性がない領域に手を出すのは心理的なハードルがあり、結局「今やっていること」の範囲内で考えてしまうことも少なくありません。
この記事では、私たちが施策を考える前に「購買行動プロセスの可視化」から始めるようにしている理由についてお伝えします。AIを活用してマーケティングの成果を最大化したいと考えている方の参考になれば幸いです。
目次
多くのマーケターは「点」で施策を考えている
マーケティングの現場では、多くの場合、コミュニケーションをタッチポイントやターゲットの状態ごとに展開しています。たとえば、「認知層にはSNS広告」「比較検討層にはリスティング広告」「購入直前層にはリマーケティング」といった具合です。
これ自体は決して間違いではありません。ターゲットの状態に合わせて施策を打つのはマーケティングの基本です。しかし、この考え方には一つの落とし穴があると私たちは感じています。
それは、各施策が「点」として存在してしまうことです。
「点」で施策を考えている状態でAIに相談すると、どうなるでしょうか。「このリスティング広告の成果を上げたい」と聞けば、AIは広告文の改善案やキーワードの提案をしてくれます。でも、それはあくまで「リスティング広告」という点の中での最適化です。
ターゲットがなぜその検索をするのか、検索の前後にどんな体験をしているのか、最終的に何を求めて購買に至るのか。こうした「線」としての文脈が見えていないと、本当に価値のある施策にはたどり着けないのではないかと私たちは考えています。
ターゲットには必ず「購買に至るコンテキスト」がある
どんなターゲットにも、購買に至るまでの文脈(コンテキスト)があります。
たとえば、BtoBのSaaS製品を検討している担当者がいるとします。この人は、ある日突然「SaaS 比較」と検索したわけではありません。
- まず、社内で業務効率化の課題が持ち上がった
- 上司から「何かいいツールはないか」と聞かれた
- とりあえずGoogleで検索してみた
- いくつかのサービスの資料をダウンロードした
- 社内で検討会議を開いた
- 導入事例を見て安心感を得た
- 最終的に稟議を通して契約した
この一連の流れが、そのターゲットの購買行動プロセスです。
このプロセス全体を理解していると、「SaaS 比較」で流入してきた人に対するコミュニケーションの設計が変わってきます。単に「うちのサービスが一番です」と伝えるのではなく、「社内検討会議で使える比較資料をダウンロードできます」「導入稟議のテンプレートをお渡しします」といった、次のステップを後押しする施策が見えてきます。
私たちが「点」ではなく「線」で考えることを大切にしているのは、こうした理由からです。
AIとの壁打ちで変わったこと
私たちがAIを活用するようになって変わったことの一つは、壁打ちの質です。
以前は、「このターゲットに響くコピーを考えて」「この広告の改善案を出して」といった形でAIに相談していました。もちろん、それでも有益なアウトプットは得られます。
しかし、ターゲット情報だけでなく、「購買までのプロセス」を一緒に伝えるようにしたところ、明らかにAIからのアウトプットが変わりました。
たとえば、こんな違いが生まれます。
| ターゲット情報のみ | 購買行動プロセスを加えた場合 |
|---|---|
| 「30代の経営企画部の担当者向けのコピーを考えて」 | 「30代の経営企画部の担当者で、上司から業務効率化ツールの調査を任された人。まだ予算は確保されておらず、まずは情報収集段階。3〜4社を比較検討して、来月の経営会議で提案する予定。この人に響くコピーを考えて」 |
| 一般的な価値訴求のコピーが出てくる | 「経営会議で説明しやすい」「稟議が通りやすい」といった、プロセスを踏まえた訴求が出てくる |
購買行動プロセスをAIに伝えることで、施策や訴求のアイデアが具体的になり、実現可能性も見えてきます。
私たちは、AIに相談する際には必ず以下の3つを伝えるようにしています。
- ターゲットの基本情報(属性、役職、課題など)
- 購買に至るまでのプロセス(きっかけ、情報収集方法、意思決定の流れ)
- 今、ターゲットがどのフェーズにいるか
この3つを揃えてから壁打ちを始めると、AIとの対話の生産性が大きく上がると感じています。
購買行動プロセスを可視化するメリット
購買行動プロセスを可視化することには、いくつかのメリットがあります。
1. 施策のアイデアが広がる
「点」で考えていると、施策のアイデアは限られます。しかし、プロセス全体を見渡すと、「このフェーズにはこんな施策が必要だ」「この遷移を促すためにはこういうコンテンツが要る」といった発想が生まれます。
専門領域に閉じこもらず、マーケティング全体を俯瞰できるようになります。
2. 優先順位がつけやすくなる
購買プロセスのどこがボトルネックになっているかが見えると、優先順位がつけやすくなります。「認知は取れているけど、比較検討フェーズで離脱している」とわかれば、そこに注力すべきだと判断できます。
闇雲に施策を打つのではなく、根拠を持った意思決定ができるようになります。
3. チーム内の共通言語ができる
購買行動プロセスを可視化して共有すると、チーム内の共通言語ができます。「このターゲットは今どのフェーズにいるのか」「この施策はどのフェーズを狙っているのか」といった会話ができるようになり、コミュニケーションがスムーズになります。
AIを活用する際にも、この共通言語があると便利です。チームの誰が壁打ちしても、同じ前提でアウトプットを得られるようになります。
AIの力を借りて購買行動プロセスを可視化する
ここまで読んでいただいた方の中には、「購買行動プロセスを可視化するのは大変そう」と感じた方もいるかもしれません。
確かに、ゼロから作るのは大変です。しかし、AIの力を借りることで、このプロセスを効率化できます。
私たちは、顧客インタビューの記録や営業のヒアリングメモ、アンケート結果などをインプットデータとして、AIに購買行動プロセスの仮説を出してもらうことがあります。もちろん、それだけで完璧なものはできませんが、たたき台としては十分に使えます。
大切なのは、まず可視化を試みることです。完璧を求めて動けなくなるよりも、仮説でもいいから可視化して、施策を打ちながら修正していく方が、結果的に精度は上がっていきます。
最後に
この記事では、私たちがマーケティング施策を考える前に購買行動プロセスを可視化する理由についてお伝えしました。
要点を整理すると、以下の通りです。
- 多くのマーケターは施策を「点」で考えがちだが、ターゲットには必ず「購買に至るコンテキスト」がある
- AIに相談する際、ターゲット情報だけでなく購買行動プロセスを伝えることで、施策のアイデアが具体的になり、実現可能性が見えてくる
- 購買行動プロセスを可視化することで、施策のアイデアが広がり、優先順位がつけやすくなり、チーム内の共通言語ができる
- AIを使えば、購買行動プロセスの可視化自体も効率化できる
「今の業務以上の施策」をAIで実現したいと考えるとき、とっつきやすい施策の改善から入りたくなる気持ちはよくわかります。私たちも最初はそうでした。
しかし、一度立ち止まって購買行動プロセスを可視化してみると、見える景色が変わります。ターゲットの解像度が上がり、より価値のある施策を見出せるようになると私たちは考えています。
AIというツールを手にした今だからこそ、「点」ではなく「線」で考えることの重要性が増しているのかもしれません。
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